えいがドゥロヴァウ

ヴィクトリアのえいがドゥロヴァウのレビュー・感想・評価

ヴィクトリア(2015年製作の映画)
3.7
観て参りました

140分(厳密にはオープニングとエンドロールを除いた134分)をワンカットで撮影した、というだけで十分に興味をそそられますが
鑑賞のモチベーションとしては
そのキャッチーな"ワンカット"の必然性やその効果を見極めることでした
そして、相対的に映画における編集(カット)の意味を改めて実感できればいいな、と

まず、時間の設定がとても良かったですね
深夜の4時から始まるので、映画が進行している間に夜明けが来ます
とても無謀と言える企画にもかかわらず
セット組みの撮影は冒頭に登場するクラブのみで
劇中の大半が屋外ロケなので
リアルタイムで日が昇っていく街並みの暗→明のグラデーションを味わえます
そして主人公のヴィクトリアの濃密な2時間の経験を経ての内面的変化が
早朝の澄んだ空気感とシンクロし
良い余韻をもたらします
決して清々しいものではありませんが…
ちなみにこの時間帯に撮るために1日に1テイクしか撮影できず
3テイク目でオーケーになったのだそうです

映画にとって編集とは不可欠なものという固定観念に則ると
ではこの作品は映画と呼べるのか?という疑問も当然湧き上がりますが
僕は十分、これは映画だと認識できると感じました
役者の即興演技や周囲に起こる偶発的なアクシデントなど
不確定要素を積極的に取り入れる姿勢が
本作の成功の要因だったのではと思います
アクシデントでさえも、舞台となるベルリンの「現実」に他ならないわけですからね
臨場感とエモーションの流れという面において
ワンカットの効力は遺憾なく発揮されていたと思います

逆に、編集は撮影者の存在を紛らわせるために有用な手段だと再実感しました
全編ワンカットということは終始カメラマンのPOV映像ということですから
たとえばカメラマンが車から降りる瞬間などは
やはり撮影者の存在が強く意識され
ドキュメンタリー感が出てしまうデメリットは拭えませんでした
没入するためにはなるべく撮影者の存在は意識したくないものです
(なので、そもそも手持ちカメラのブレる映像は個人的にはあまり好きではありません)
いやしかし、カメラマンも動き回って実に多様なアングルで役者を捉えているので
映像そのものは変化に富んでいて飽きさせません

パンフレットにもありましたが
映画芸術的な挑戦を孕んだ作品でありながら
題材は若者のクライムサスペンスだというある種のギャップは確かにとても興味深いですね
若者の軽薄さ、愚かさ
そして孤独と他者との触れ合い、そして喪失
題材的に真新しいものは決してありませんが
本作はしっかりとその独自性を確立していると感じられます

ちなみに監督は同じくワンカット映画の『エルミタージュ幻想』(96分)は観ていないのだそうで(笑)
僕も未鑑賞なので観てみたいと思います
そちらは全編室内撮りなので
またスタイルが全然違うのでしょうね