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怪物はささやくのemilyのレビュー・感想・評価

怪物はささやく(2016年製作の映画)
3.7
 難病の母と二人暮らしのコナー。ある夜彼の前に怪物が出てきて、これから3つの物語を話すという。4つ目はコナーの真実の話をしろと・・

 コナーの置かれている現状としっかり交差する3つの物語。それらの教えには生きる上の不条理が含まれており、それを知り、理解し向き合う事で、自分の弱さとおのずと立ち向かっていくことになる。少年の汗握る表情の数々にはその瞬間にしか出しえなかった多様な表情があり、それをしっかり掬い上げ本作を”生き物”にのしあげてる。ファンタジーな入口、かわいいお家、庭園、家から伸びる一本道、子供の夢物語を思わせながら、しっかりダークな世界へ浸かっていく。

 少年の悪夢、物語が進むごとにあぶりだされる少年の心の奥底にある真実の思い。それにより自らを責め、自らが呼び寄せた怪物。しかしそれは誰の心にも潜んでいるものである。コナーの葛藤、思いと裏腹な現実。自分の力ではどうしようもできない現実。願っても祈りをささげてもかなわない事もある。それでも願い続けなくてはならないのか?諦める事は罪なのか?ただのダークファンタジーではなく、しっかり重圧な人の心情をあぶりだす。

 物語の世界は水彩画のような世界であり、どこかゆらゆらと繊細で、絵本をめくっているような美しい色彩で見せてくれる。そこから広がる世界は自由で開放的に見える。しかし現実としっかり交差することで、少年の心の閉鎖感が浮き彫りになる。嘘でも夢みていたい。信じていたい。若干13歳ながらシビアな現実に向き合わされ、大人になることを強いられる。少年の心の葛藤が非常に繊細に描かれており、それが解き放たれて心が自由になったときの解放感に安堵する。誰にも言えなかった思い。吐き出せなかった思い。それを引出してあげるのは周りに居る大人だったり、友達だったり。そうゆう人が一人でもいれば、きっとしっかり前向いて歩いていけるのだろう。

 怪物の存在と母の存在が繋がる。そばに居なくても、心に生き続けると。そうして語り継がれる事で、母もまた生き続けるのだと。
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