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四季~ユートピアノのIMAOのレビュー・感想・評価

四季~ユートピアノ(1979年製作の映画)
5.0
佐々木昭一郎の作品を初めて見たのは、偶然NHKでやっていた『川の流れはバイオリンの音』だった。僕が浪人の時で、お茶の間に流れたその映像はとても異質で、今流れた映像は一体なんだったのだろう?と思ったと同時に、忘れがたい経験をしたと感じていた。大学に入ってからもNHKの放送博物館で『四季~ユートピアノ~』という彼の代表作を上映する事を、当時付き合っていた彼女が調べてくれて、二人で見に行った。観客は僕らを含めて三、四名だったと思う。でもそれ以来『四季~ユートピアノ~』は僕の中で「映画」となった。
佐々木昭一郎はNHKの局員ディレクターとして70年代から80年代優れたドラマを数本作ったが、当時メディアで取り上げられる事はほとんど無かった。だが、彼の作品を見た人たちが心の中で彼の作品を育てた。是枝裕和がそうだ。河瀬直美がそうだ。塚本晋也がそうだ。佐々木昭一郎のドラマを同時代に見た市井の人々が彼の作品を映画だと感じ、彼の作品を映画館で観たいと願ったのだ。そうした思いがつもり募って、2010年に佐々木昭一郎の特集上映がユーロスペースで行われた。
今の時代「映画とは何か?」という問いに答えるのは難しい。フィルムで撮られたから映画か?というとそういう事でもないだろう。映画館で流したから映画か?というとそれだけでもない様な気がする。今はスマホで撮影され配信だけしかされない映画だってあるし、そうしたモノの中にも優れた作品がたくさんある。今まさにそうした時代に僕たちは向き合っている。でも本当に優れた作品で人々が心の中で「映画」だと感じたものは、自然とスクリーンで上映される事になるのではないだろうか?佐々木昭一郎の作品はそういう希望も含めて「映画とは何か?」という答えの一つになっていると思う。
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