成人映画やオリジナルビデオで多くの作品を監督し、その後『アルプススタンドのはしの方』などの作品も話題となった城定秀夫の2002年の作品。
まずファーストショットから冴えていた。台所に立ち料理をしている女（七海なな）の後ろ姿。彼女は包丁で手を切ってしまう。その背後にいる旦那が面倒臭そうに見る。「もう朝飯いらないよ」などと言って玄関まで行く夫の後を女は追う。夫は玄関で後ろを見ずに手を差し出すと、女は黙って夫の手に靴べらを渡す。玄関を出てゆく夫を見送った女は、指先から血が流れ出ている事に気付く…冷め切った夫婦の関係が、このワンショットで全てが語られる。
喘息持ちで、夫からの愛も冷め生きる希望を失っている女は、近くの廃工場でドラッグをしながらセックスするカップルを盗み見たりして、その行き場のない欲求不満を解消しようとする。だが、彼女が満たされることはない。そんな彼女の家に、殺人未遂事件を起こした男が侵入してくるのだが…
計算し尽くされたカメラワークも素晴らしく、忘れ難いショットがいくつもある。（工場地帯を背景に走る七海ななの姿は、映画的にとても美しい！）そして台詞も良い。「膝、痛い。明日お布団買ってくるね」「あなた、殺人犯よ…カッコ良いね」などこれだけ書くとよくわからないかもしれないが、その場の空気感と感情をうまく表現している。
そして、この主演の七海ななを活かしきった演出は、とてもノっている。やはり世に出てくる人には、良いお仕事があるものです。
