カタパルトスープレックス

対話の可能性のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

対話の可能性(1982年製作の映画)
3.3
ヤン・シュヴァンクマイエル監督の出世作となった短編ストップ・モーション・アニメーションです。シュヴァンクマイエルの短編では一番有名な作品だと思います。

ヤン・シュヴァンクマイエル監督は『アリス』(1988年)で長編デビューをしますが、それ以前は短編作品を中心として活躍していました。最初の短編は『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』(1964年)でしたがストップ・モーション・アニメーションはごく控えめに使うだけでした。本格的にストップ・モーション・アニメーションを使うようになったのが『石のゲーム』(1965年)からです。本作品(1982年)はその『石のゲーム』の発展系であり、最終到着地点だと思います。

この方向性はデッドエンドだとシュヴァンクマイエル監督自身も感じたのではないでしょうか。初長編となる『アリス』(1988年)はこれとは別の方向性の『ジャバウォッキー』(1971年)から発展させていきます。

なお、本作品は「永遠の対話」、「情熱的な対話」と「不毛な対話」の三部構成になっています。

永遠の対話:「台所用品人間」が「野菜人間」を破壊し、「野菜人間」が「文房具人間」を破壊し、「文房具人間」が「台所用品人間」を破壊していきます。破壊されるたびに細かくなり、最後に粘土くらいの細かさになります。そこまで細かくなってしまうと原材料の違いは分からなくなります。人間らしい「粘土人間」の誕生です。

情熱的な対話:「粘土人間」の男女が愛し合い、お互い一つになるくらいに重なり合い、子供ができる話。しかし、子供は異物として男にも女にも溶け合うことができません。

不毛な対話:「粘土人間」同士がモノの組み合わせを作っていく話。ここはシュヴァンクマイエルの真骨頂とも言える不条理劇となっています。

これはこれで面白い話の構築なのですが、シュヴァンクマイエル監督にしては理路整然としていて、カオス感がありません。不条理が足りないんですよね。一般的な評価が高い作品で、ストップ・モーション・アニメーションの歴史の中では意味のある作品かもしれません。歴史的意味があっても面白さは経年劣化してしまっています。