半兵衛

ソレダケ that’s itの半兵衛のレビュー・感想・評価

ソレダケ that’s it(2015年製作の映画)
2.5
戸籍のない男がアンダーグラウンドな世界から脱出しようともがくドラマを勢いだけで描くパンクな作風は初期の石井監督作品を思わせるけれど、30年もたつとさすがに寄る年波にはさすがに勝てず石井監督特有のエネルギーは往年より減退しているし、そしてあの腹から叫んでいるようなパワー重視の演出や揺れるカメラワークが様々なサブカルチャーで使われた結果よくある手になってしまい今となっては斬新さが得られず掛かっている歌も相まってどことなくPVみたいに。あと綾野剛のキャラクターだったり、白黒による映像などアートチックな演出がどことなく鼻について石井監督自身はぶれていないつもりでも年を重ねて作家としての思考が変化しているのだなあと痛感。

それと勢いを感じさせる演出が冒頭の疾走シーンなど意外と少ないのもあれかなと、それでも最後の場面はありったけのエネルギーをぶつけて主人公に「生きろ」と咆哮しているように感じるけれど悪い意味で炸裂していて「あの現実なのか夢なのかよくわからない並行して語られる二つの物語は何なの?」状態となり、よくわからない内にいつの間にか主人公が決着をつけていた…ごめん何度見てもこのシーンの意味がよくわからない。

拷問シーンが無駄に長いのも個人的にはキツかった、ヒロインへの爪へのあれは無駄に残虐だったけれど物語に大して影響を与えてないって何でやったんだろう。でもそんなひどい目にあっても主人公を想うヒロインの水野絵梨奈が意地らしくてそんな彼女の気持ちを察しない染谷将太にイラッとする。

アンダーグラウンドな社会でそれなりに危ない仕事をして生きている人間像を飄々と好演する渋川清彦や村上淳は良かった、あと台詞もろくにない脇役で桜井ユキや瀧内公美が出演しているのにびっくり。

ちなみに『レポマン』や『野獣の青春』のようなそれぞれが撃った弾丸が色んな人に当たってカタがつく銃撃シーンが登場するけれど、下手くそだったな。まあ石井監督は本来そういうのを上手く演出する人ではないのだけれど。
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