小室敬幸

ローリングの小室敬幸のレビュー・感想・評価

ローリング(2015年製作の映画)
4.2
心底おもしろかった。だけど、万人に薦めはしない。

「茨城県水戸市」を題材にしているが、ある意味ではきっかけでしかない。水戸でなくてもいい。

どこまでもコミカルに、そしてシニカルに、どこか田舎の地方都市におけるうだつのあがらない下衆な生活を大袈裟に描くことによって表出されるのは、人の本質だ。

画面にあらわれる陳腐で単純な行動が、恐ろしいほどの強度を持って迫ってくる。なぜならそれらが彼ら自身にとっては、とても切実で、現実感を持てるものだからだ。

いま自分が感じていることに正直であり、感じたままに行動するだけ。彼らは馬鹿なのではない、馬鹿なままでいたいだけなのだ。

ときどきは、あり得たかもしれないもうひとつの未来を想像することもあるが、結局は自分の知り得る範囲で感じるままに生きるしかない。幸せになることを願って。

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音楽も素晴らしかったことを忘れずに書き残しておこう。技術的な側面としては、機能和声的な進行感のあるハーモニーをラストシーンと、エンドロールのみに集約したことが、この映画を陳腐にしないためにどれだけ大きな役割を果たしているか、声を大にして言っておく必要があると思う。

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劇場で観るのもいいが、DVDで観ながら周囲を気にせず下品に笑いながら観るのも一興。笑いこらえるのがつらかったもんで。

93分とは思えぬほど、濃密な時間が幸せすぎた。
小室敬幸

小室敬幸