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ヒメアノ〜ルのTorichockのレビュー・感想・評価

ヒメアノ〜ル(2016年製作の映画)
4.8
「ヒメアノ〜ル」

はい、出ました。今年の邦画ベスト確定です。

「モヒカン」も「ちはやふる」もめちゃくちゃ素晴らしい映画でした。
「日本で一番悪い奴ら」も楽しいだろうし、恐らくは黒沢清の「クリーピー」も楽しそう。三浦大輔も李相日も、山下敦弘監督作品も気になります。

だけど、吉田恵輔監督、これしかない。
日本人監督の中でも、完全に頭一つ突き抜けました。

吉田監督のひとつの力でもあると思いますが、何よりもキャスティングの妙に尽きます。
僕が比較的苦手だったムロツヨシの演技は、この作品内においてはとても実在感がある気色悪い安藤さんになっていましたし。
それに世の中、有村架純だ、広瀬すずだ、高畑充希だ騒がしいですが、小柄で可愛い女の子の代表は、この子しかいないだろ!と言わんばかりの、佐津川愛美ちゃん。わかってるぅ〜‼︎ もう、最高です。
さっちゃん自身も、パンフにこう答えてましたよ。
"監督の理想を意識しました"
可愛くて、エロくて、生々しいリアクション。す、すごい!吉田恵輔監督のエロを感じるアンテナは、井筒監督をも凌駕すると確信しました。

濱田岳が演じる岡田くん。
一見、いつもの濱田岳らしいキャラクターに感じますが、実際はこの作品の主人公と、その俳優の度肝を抜くキャラクターを受け止めなくてはいけない。それを、前半のコメディと後半のスリラーと合わせて受け止められるのは、濱田岳以外ありえないと思いました。

そして、語らずにはいられなのは、森田くん演じる森田剛。
V6で俳優として成功してる人といえば、岡田?
アホか!岡田とバンプは山崎貴とズブズブな
イケメンゴリラやんけ!(いい俳優だと思いますよー、好きな作品少ないけどね)
というか、誰がどう見てもこの作品を見れば、森田剛のヤバさに気づくでしょう。
ムロツヨシが
"淡々と演技していて、ゾッとさせられるくらい怖かった"と語るほど。
声の細さと低さ、無気力な顔、痩せ細ってはいるけれど、力が強そうな雰囲気。
彼の口から吐き出される言葉と嘘が、めちゃくちゃ怖くて切ない。
その昔、「ランチの女王」でかましてくれたチンピラ役で、僕の涙を攫ってから14年、また森田剛に泣かされるとは。

森田くんが岡田くんを喰ったという意味では、V6のメタ視点でも見れますな(笑)

作品の作りも超好みです。

前半と後半がガラッと変わるという意味では、よくある手法とは言われるかもしれません。が、さすがです、吉田恵輔監督。
「ピンクとグレー」の行貞監督が、あのやり方でドヤ顔してるとしたら、河島ばりに犬のウ◯コ食わしてやります。それくらい、この切り替えのタイミングと、タイトルの出すタイミングが、


最っっっ高にかっこいい!!!!


久しぶりに映画館で鳥肌が立ちました、ビンッビンッです。

コメディ部分もスリラー部分も、総じて吉田監督の意地悪な演出がすごいです。
コメディ部分ではその意地悪さが、爆笑を誘う演出です。これは、今までの吉田作品でたくさん見たことのある展開とかなんです。ゆかの友達の、きのこ頭のあのブスとか、吉田恵輔監督特有の名キャラクターでした。
逆に、スリラー部分になると、「さんかく」の田畑智子を超える、恐怖演出が目を引きました。そして、そこに生々しい意地悪な暴力描写が乗っかって、とんでもない映像をいくつも見ることができました。

例えば、

逃げようとする女を棒でタコ殴りするシーンと、バックで突きまくるSEXシーンが入り乱れ、生と死が交互に画面で暴れまわり、SEXで絶頂に達した瞬間に、殴られまくった女は失禁し息絶える。

こんなシーン見たことない。こんなシーン、今まで見たこともなかったんです。
バイオレンスを見慣れた僕も、"うわっ..."と言わずにはいられない、名シーンでした。

殺した人間の部屋で、のんびりカレーを食う嫌な感じとかたまらないですし、レイプしようと思ったら、"アレ"だったときのリアクションと、その直後に即事件現場のカットになるという手際、「It Follows」から続く、"恐怖の対象は激しく動かない"という僕のトレンドにまた一つ、

"ボーッとしている"と"同じことを、淡々と何度も言う"

が加わりました。

監督自身が、"もう一度、クソみたいなイメージを取り戻したい"とおっしゃられていたとおり、過去作をはるかに凌駕する、意地悪かつ残酷なこの世界観に、本気でしびれました。

だけど、恐らく根底にある監督の優しさが、
"麦茶と友達と、愛すべきお母さんと犬"
という、涙を流さずにはいられないラストを迎えたのだと思います。

それは、森田くんというキャラクターを、
"淡々と人を殺す狂人"として、僕たちが"次元の違う人間なんだ"とカテゴライズさせない作用になっているとおもいます。つまり、僕たちにも森田くんのようになってしまう可能性を内包したり、あるいは、彼を生み出すような世界を作り出したのは、スクリーンの前で

"怖ーい"

と目を塞いでるあなたたちかもしれないという示唆でもあるように思えたのです。
確かに怖かった、恐ろしかった。
だけど、そんな簡単な言葉で片付けられるキャラクターではないと思うんです。

"怖かった"、"サイコパスやべぇ"

と、笑いながら簡単に片付けてしまう人こそが、この森田くんを作り出してるんだということを、吉田恵輔監督がこっそりと、でも確かに鋭く尖るナイフで突き刺しているのではないか?と僕は感じました。
それこそが、この映画における吉田監督のもっと強烈な"意地悪演出"かと思うほどに。

僕は、ずっと森田くんがかわいそうで仕方なかったです。
僕だって、河島を殺したかった、ずっと殺したかったです、観てる間。
同じように、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も殴り、刺し殺してやりたいと思いました。それくらい生々しい映像だった。


だから、あのラストシーンのあまりにも寛大で暖かい優しさに、涙を流してしまったのです。


愛らしくて、恐ろしくて、怖いけれど、優しくしてあげたい。
それは去年、「ヴィジット」を見終わったときの感覚のそれに近い、名状しがたい何かでした。

こんな映画を作ってくれたことに心の底からありがとうを言いたいです。


原作、速攻買いました。

とてつもない作品です。
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