ろくすそるす

ヒメアノ〜ルのろくすそるすのネタバレレビュー・内容・結末

ヒメアノ〜ル(2016年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

にわかファンではあるが、それでも『僕といっしょ』や『ヒミズ』、『シガテラ』などで心を鷲掴みにされた自分としては、古谷作品の映画化というだけで、期待値が上がってしまう。2カ月くらい前に一度鑑賞して、圧倒されて、もう一度鑑賞。

 前半のコメディ路線から途中、森田が殺気を帯びてからの突然のオープニングタイトルの入り方が最高!岡田進(濱田岳)の良い人だけど小心者で、「いかにもな」童貞で、災難に巻き込まれる男と清掃会社の先輩である安藤さん(ムロツヨシ)の自分の世界に入りすぎて、ちょっとアブノーマルな滑稽な良い年した男。この二人のコンビも良いが、安藤さんが惚れて、結局は岡田と付き合うことになる美少女のカフェ店員・安部の、ほんわかしてるけど、実は経験豊富な女性っていうのは実際よくいるので、とってもリアルだった(岡田進の童貞喪失エピソードも、とてもありがちな痛さで、ニヤニヤを誘いおもしろい)。
 さらに、彼女のパグ犬のような不細工な余計なことを言う女友達(こういう無意識に全てを破壊し台無しにする人物は結構いるなぁ)、森田に脅される同級生の同じ虐められっ子の和口などのキャラクター性も凄いが、もう一人の主人公・森田はもう別の次元にいて圧巻。

 もともと、森田剛自体、ジャニーズの中でも、ちょび髭を生やした舞台演劇人としての雰囲気が、長瀬智也が『龍が如く』桐生っぽい極道者的なごつさがあるのに対して、異様に哀愁というか、なんとなくアウトサイダーな感じがあったと思ってはいたが、正直ここまで社会的逸脱者が似合う俳優だとは思わなかった。
 黒いジャンバーのポケットに手を突っ込んで、パチンコと煙草に明け暮れ駅の看板を殴りつける、明らかに定職についてない危ない男。その裏の顔が、無軌道な快楽殺人を繰り返すシリアル・サイコ・キラーであった。
 鮮血したたるというよりかは、グッショリと蘇芳色をしたドス黒い血がべったりと流れるバイオレンス描写の作り込みが良い。銃弾を受けたときの血の壁への飛沫、包丁で滅多刺しにされた男の傷跡。森田の有無をいわさぬ性急な殺しが凄まじい。
 途中、安藤さんを巡るやりとりの感動的な場面を挟んで、終盤はいよいよ圧倒的ないじめを受け人格崩壊した暴力の徒である森田と岡田が再び顔を合わせる。怒濤の展開の中で、岡田のある一言が響く。白い犬の伏線の上手さ。「お母さん、麦茶二つ持ってきて!」
 昔仲が良かった友人との一時にまで、急に遡るラストのエモーショナルな見せ方が、とても切なく傑作だった。救済のない森田なのだが、最後の壊れる前の森田に戻ったあのにっこりした表情と「また遊びにきてよ」が胸に突き刺さる。今年の邦画のバイオレンス路線は目を見張るものがあるが、『ディストラクション・ベイビーズ』を越える上半期一の偏愛作になった。さて、長谷川和彦絶賛のノワール『ケンとカズ』はどうか?