豚肉丸

ウイークエンドの豚肉丸のレビュー・感想・評価

ウイークエンド(1967年製作の映画)
4.6
父の遺産を貰うため死にかけの父に会いに行こうと週末にドライブをするが、ドライブの途中で様々な厄介ごとに巻き込まれてしまうお話

ゴダール映画の中ではかなり面白かった。やっぱり意味はよくわからないし政治思想はたっぷり詰まっているしで要素自体は苦手なゴダール映画とそこまで変わらないのだが、映像とシチュエーションが面白く、ゴダール映画にしてはかなり映画の運動も多いため楽しむことができた。
映像は滅茶苦茶良い。序盤の渋滞に巻き込まれる長回しの場面、「神」を名乗る男女を車から追い出したらその男が奇跡を起こす場面、事故の場面などなど、ゴダールの前衛的な演出と残酷な世界観が合わさっていて面白い。人も大量に死ぬし、何なら少女が生きたまま焼かれて殺されたりする。
渋滞のシークエンス。クラクションがうるさく鳴り響き渡る中、主人公夫婦は反対車線を走って渋滞を横から眺めながら道路を進む。渋滞の中にはルーフから身体を出しておじいさんと子供がボール遊びをしていたり、老夫婦がチェスで遊んでいたり、事故が起きていたり、死体が転がっていたりと、その一直線の道路の中に社会が出来上がっている。主人公の車の運動とカメラの運動は同じように進み、10分以上の長い渋滞を見せた後、その「渋滞の原因」を最後に流れるように見せるカメラの動きがかなり良かった。
『勝手にしやがれ』が代表するように、ゴダールの前衛的な演出の中でもかなり有名なのがジャンプカット。そのジャンプカットを使うことによって無から羊の群れを生み出し、男が「神」であることを印象付ける演出は、良すぎて笑ってしまった。

けど物語はやっぱり訳がわからない。明確なストーリーラインは単純明快でわかりやすいけど、そのストーリーラインが何を意味しているのかがわからない。
ブルジョワ批判とアメリカ批判。
映画内で何度も強調されるように、主人公夫婦は明らかなブルジョワである。西欧の思想をインストールし、まさに典型的な金持ちの西欧人である。しかし、夫婦には「西欧の思想をインストールしている」ことがきっかけで悪い出来事が起こる。ヒッチハイクで助けを借りたくても、西欧を支持しているから断られ、西欧の立場に立っているから断られる。映画の後半ではこれまでとは一転し、ブルジョワに踏み躙られてきた人種と民族の叫びが強調される。そして、「自分たちが優位に立っている」というブルジョワシーの観点からすれば最も理解できないある民族に出会ってしまったことで、皮肉な結末を迎える。
ゴダールなりのブルジョワ批判なのだろうけど、ブルジョワぐらいしか見ないであろうゴダール映画でここまで痛烈なブルジョワ批判を描いたのはちょっと面白い。けど中東戦争などの時代背景はあまり理解できなかったため、この時代の西欧とアフリカの歴史を学んでいれば理解できるようになったんだろうな…と思った。

けどゴダールの映画の中では普通に映画として面白かったためかなり好き。まさにゴダールの映画は好きな作品と嫌いな作品がハッキリ分かれるけど、これはかなり好きな方。
豚肉丸

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