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お遊さまのSariのレビュー・感想・評価

お遊さま(1951年製作の映画)
4.0
巨匠・溝口健二監督による谷崎潤一郎の名作小説『蘆刈』を翻案し、大映時代の幕開けを告げる文芸作品。
撮影は巨匠・宮川一夫が担当した。

物語は大阪の骨董屋の息子である慎之助と、二人の姉妹であるお遊とお静との三角関係を中心に展開していく。慎之助は見合いの席でお遊をお静と勘違いし、彼女に恋心を抱いてしまう。しかし、お遊は未亡人であり、お静は慎之助がお遊に対する感情を知りつつも結婚し、彼らの関係は形式上のものとなる。慎之助はお遊への愛を求め続ける…

画面の端正な美しさ、素朴な京都の風情を再現する、ゆっくりと流れるようなカメラワーク、御簾の隙間を出入りする人物のどこか霞のかかったような映像。巨匠・宮川一夫のカメラと、長回しの流麗なワンシーンワンカットで演出する溝口健二の作風が見事に合った画面に魅了される。

お静は男性の幸福のために自己犠牲を払うという一見すると古い女性観を反映しているように捉えられるが、時代背景による作品の特徴でもあるだろう。
お遊に母親の面影を見る慎之介にはマザーコンプレックス的な熟女嗜好が見受けられるのも面白い。
ただし、フレーミングに注目すると慎之助とお遊、あるいは慎之助とお静よりも、お遊とお静という2人の女性たちによるツーショット、ロング・ショットが多用されている。
原作における同性愛的な描写の数々は、制作当時においてそのまま映画化することは出来なかったため、女性同性愛の検閲を回避するべく、利用された「母性メロドラマ」的な関係が(擬似的ではあるが)見出されるのではないかとも言われている。

お遊一行が、牡丹で有名な長谷寺へ見物にゆくシーンでは、同寺の壁の汚れを撮影のために塗り直したという、完璧主義の溝口健二らしいエピソードも残っている。
奈良の長谷寺は馴染みのある寺。本堂へ向かう屋根付きの長い階段の登楼の天井に「長谷型」と呼ばれる丸い灯篭が吊るされているのであっと思ったが、奈良で撮影していたとは思わなかった。
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