きゅうげん

イット・フォローズのきゅうげんのレビュー・感想・評価

イット・フォローズ(2014年製作の映画)
4.1
ふと外を眺めたとき、こちらを見つめる人がいたら? こちらへ歩いてくる人がいたら? そしてそんな恐ろしさがずっと後をつけてきたら?
ギョッとするような刹那的恐怖が終わらない、まさに悪夢のような体験です。

まず冒頭の秀逸さに唸らされました。
肌も露わに家から飛び出してくる女性。真っ赤なハイヒールで走るという不安定感が歪な恐怖を補強します。そして逃げてきたはずの家へ戻ると、しきりに背後を気にしながら今度は車へ。真っ暗な海を背負って広い砂浜にポツンといる不安は筆舌に尽くしがたく、そして夜が明けると一本線の海岸には……、掴みとして100点満点ではないでしょうか。
このオープニングにもある、見下ろす・見回すような撮影が本作の白眉と言っても過言ではなく、視線を誘導されると同時に「視界の隅に見とめてしまった」感の恐ろしさに息をのんでしまいます。長まわしなのに/だからこそ瞬間的な恐怖が引きたつ、素晴らしい演出です。

セックスを媒介に「それ(it)」が伝播していくという、一見トンデモな設定に面食らうかもしれませんが、しかしこれは本作において最も重要なテーマ。この映画はセックスを直接描く場面以外にも、ポルノ雑誌を拾った話や主人公を覗くガキンチョなど、性的な描写やセリフが非常に多く盛り込まれているのが特徴です。
そして同じように多く言及されるのが、幼い頃の思い出話。幼馴染という間柄も相まって過去のよもやま話にしばしば花を咲かせます。メンバーがご近所幼馴染組というのも大事で、気心の知れた仲間が協力して解決をめざすという構図はスティーブン・キング的王道路線をブラッシュアップした感があります。

いつメンで力を合わせる一方、徹底して排除されているのが大人、特に親です。「お母さんには言わないでね」と折に触れて拒否し、実際のトラブル中も一切不干渉です。
これは前出の「性モチーフ」「幼少への回顧」などとも密接にかかわる要素と考えます。ティーンエイジャーとしてのイニシエーション的側面です。大人への過渡期の肉体的・精神的成長において、大人、とりわけ親を相対化するのは非常に重要です。それが恐怖表現としての「「それ」が親密な人に化けて見える」や「母親とのセックス」「父親からの攻撃」になるのではないか、なんて考えてみたり。親とセックスなんて一番結びついてほしくない要素ですよね。

感染のロジックとか解決方法とか展開・内容自体はあまり煮詰めずイメージ勝負な方向で、中盤以降は流れがつかみづらく中弛みを感じないではないですが、タイトな上映時間で雰囲気を崩さず座りよくオシャレに終わっているのも魅力でしょう。
ただ、みんな服や水着が微妙にださい……。時代設定いつなんですかね。