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イット・フォローズのEikeのレビュー・感想・評価

イット・フォローズ(2014年製作の映画)
3.2
飽和気味のアメリカにおいて2000年代のホラー映画の内では久々にユニークな印象の作品。
製作費は日本円で4億円程度ですがアメリカだけでもその7倍以上を稼ぎ出した優等生。
素直な感想としては「面白い。けど、あんまり怖くないかも…」といったところ。
ただ、巷にあふれる数多のホラー映画とは違ったものにしたいという意欲と創意工夫は十分に伺えるものになっているので楽しんでみる事が出来ました。

お話は意外とシンプル。
ある「呪い」(祟りですかね)をかけられた19歳の女の子、ジェイの恐怖体験。
その「祟り」にある種の伝染性がある事と「セックス」がその大きなカギとなっている点が本作の大きな特徴。
と言っても劇中の描写自体は思いの外マイルドで、ゴア描写もSEX要素の扱い方も意外なほど抑制が効いております。
昨今のホラー映画につきもののグロい描写に耐性がない方でもそれほど抵抗無くごらんになることができるのではないでしょうか。

面白いのは本作が「現代」のお話にはなっていない点。
ぼかされてますが70年代後半から80年代初頭辺りの設定になっています。
若年層中心のホラーではSEXモチーフの利用はある意味お約束とも言えますが、性的要素自体をネタにした作品は珍しく、新鮮な印象。
基本的に物語に大人は関わってこず、結果として性を巡る若者の不安心理を突いた青春ホラー映画の気配もあったりしてかなり不思議な感触。

性行為で伝搬する「呪い」ということで言えば「HIV」が初めてアメリカに出現したのが1981年だった訳で本作との関連は否定できないでしょう。
この病の出現が当時の若者たちに「悪夢」として強く影を落としたことは容易に想像できます。
当時子供だった、監督(脚本も)のDavid Robert Mitchellが見た悪夢がネタ元だそうで、それもあってか恐怖描写には妙に浮遊感が漂っております。
ただ、そのある種幻想的な雰囲気によって恐怖が幾分薄まってしまっている気がするのも事実。

祟りに感染すると(祟られた人間とコトに及ぶと)何者か(その姿は一定してない)が出現して、迫り来るその存在に捕まると命を奪われてしまう...。
その「存在」は祟られた人間にしか見えない...
こうした設定は欧米においては新奇に思われたりするのかもしれませんがアジアや日本ではこの種の恐怖談に事欠かない訳でそれほど新味は感じられません。
ですが、人の姿を借りた「呪い」が自分に向かって近づいて来る(飛びかかってくる訳では無くゆっくりと近づいてくる)...その何てことない描写を恐怖に転化させたアイデアにはインパクトもあって巧いと感じました。
呪い殺されないためには他者に呪いを渡さなければならない、しかしそうしたからといって何時また自分に災いが及ぶか見当がつかない...という設定を受けたヒロインの行動は現実的であると同時に意外にもモラルに縛られないものとなっていて、きれいごとで終わっていない辺りは面白い。
この展開にはアダムとイブのお話しとの関連も伺える様な、人が避ける事が出来ないある種の原罪の存在を伺わせて文化的な見地からも興味深い作品になっております。

それと個人的に嬉しかったのは本作が全編「ジョン・カーペンター愛」に満ちている点。
時代設定はもちろん、シンセサウンドの重低音を使った煽り方とか舞台となる郊外の住宅街の描写やカメラワークに関しても、もろに元祖「ハロウィン」なんですよね。
加えて和製の「リング」や傑作「ぼくのエリ 200歳の少女」といった作品の影響も見て取れる訳ですが全編を通して妙にノスタルジックで「あの頃のホラー映画」の雰囲気が色濃く出ている点は気に入りました。

ただし、最近主流の「そのものズバリの見世物型ホラー」をお好みの方にはちょっと物足りなさがあるかもしれませんね。
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