レインウォッチャー

マネー・ショート 華麗なる大逆転のレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

3.5
世界恐慌の一歩手前とも言われた巨大な経済危機。アメリカの住宅バブル崩壊にはじまり日本ではリーマンショックとも呼ばれた、21世紀史に残るであろう事変の顛末と、その兆候を事前に察知した男たちの苦闘を描く。
どのレビューでも書かれているように、そこには「華麗なる大逆転」などは一切ない。初めから勝者のいない戦いであって、超個性的な人物と演じる名優たちを軸に動かしながらも、過剰にドラマチックに仕立てずドライに徹した語り口がそれを引き立てる。

金融用語が多数登場するので複雑に見え、確かにある程度のリテラシーがあったほうが飲み込みやすいのは確かではあるのだけれど、同時にこの「わけのわからなさ」とか「煙に巻かれてる感」こそが実態を表している気もする。この寄り添う・寄り添わないのライン引きは意図的なもので、テーマ性と合わさって見事だと思う。

史実のドキュメンタリー的でありながら、実はその詳細自体というよりは寓話的な価値が大きい作品ではないだろうか。
一度巨大な仕組みとして動き出してしまったものに対して変革することはおろか疑いを持つこと自体がいかに困難であるか、不都合な事実に対しての見積もりをいかに甘く誤るか…ということが痛烈に描かれていて、それは金融の世界に限ったことでは全くない。そして最も恐ろしいのは、2021年の現在でも変わりはないことだろう。それは人間が根本的に持っているバイアスのひとつなのだ。
携帯電話・通信業界の独占的搾取システムとか、コロナであらわになった情報災害のヤバさとか、そのへんに当てはめてみてもいい。このへんふまえ、個人的には義務教育で観せてもいいんじゃあないかって思える映画。

せっかくの苦しみを乗り越えた先にもあえてわかりやすいカタルシスが用意されていないため、エンタメとして見るにはちょっと厳しすぎるか…とは思うのだけれど、事実は小説より奇なりすぎて引き笑いにつながる感覚とか、随所に用意された演者のキャラ芸的な面白さは卓越している。

バリエーション豊かな変人偏屈を演じる主演陣は誰も魅力的で、中でも孤立した天才マイケル・バリーを演じたクリスチャン・ベイルは立ち居振る舞いはもちろん肌の質感まで含めてやり過ぎ俳優賞。
ラボに籠る研究者、あるいは神殿で待つ預言者タイプでありながら、オフィスでもヘヴィメタル(マストドン!)を爆音で鳴らしドラムスティックを振り回すという一面に、内在するストレスや暴力的ともいえるエネルギーがあらわれている。絶対一緒のオフィスにいてほしくないけれども。

でも一番の推しはスティーヴ・カレルかな。渦中の業界人でありながら極端に直情的な人物を演じ、本人はいたって真面目なんだけれど笑えて仕方ないっていうハマり役だった。窮屈そうなスーツでチョコマカ奔走しているのがかわいい。