のすけ

マネー・ショート 華麗なる大逆転ののすけのレビュー・感想・評価

4.1
リーマンショックという世界経済の破綻に事前に気づいて空売りに挑んだ者たちの話。

今作で好き嫌いが別れそうなポイントが背景にある金融知識、リーマンショックについて知っているかどうかだと思う。登場人物たちの立場や言動に関しても金融知識がないとなかなか理解するのが難しい。幸いにも自分は多少知っていたのでなんとかついていけたが、それでも分からない言葉や出来事があり、それは途中で調べたりもした。制作側もそこは懸念していたようで登場人物や物語とは全く関係のない人物が第4の壁を破って視聴者に直接レクチャーする場面も設けられていた。

今作は総じてコメディ作品である。アダムマッケイ同監督作のドント・ルック・アップとその作風は似ていて、危機的な状況に気づいた主要な人物たちと比較して周りにいる人たちは皆状況の深刻さに気づいておらずそれらの言動はとても滑稽に演出されている。その盲目さ、愚鈍さは不気味にも見えてくるし、面白おかしくも見えてくる。その愚鈍な周りの者に理解されず苦悩する主人公たち。よくある構図ではあるが、分かりやすく面白い。
しかし、リーマンショックは実際に世界経済を破綻させたことから当時の人々の大多数の人には予測できなかった事象である。自分が当時、社会に出ている大人だったとしてもそれに気づくことができただろうか。自分は所詮、主人公たちからすれば無知で愚かな者の1人なのではないかという怖さすら感じさせられる。

今回の作風として特徴的な第4の壁の無視。作中、時折、いやかなりの頻度で登場人物たちが視聴者に語りかけてくる場面がある。それはこの物語が実話を元にしていることから、実話から何が脚色されているかを捕捉するものであったり、作中の難しい用語を教えてくれるものであったりする。これは正しく異化効果。この異化効果もあって我々視聴者は登場人物たちとの間に距離を保つようになる。また、今作はいくかの登場人物たちに並列的に主軸が置かれているので、それもあって感情移入はしにくくなっている。その分、より俯瞰的な立場で物語を見ることができるようになっている。これにより、感動は少ないがこの歴史的な世界経済の破綻がどのようなものであったのかに集中できるような作りになっている。

登場人物たちはこの世界経済の崩壊によって儲けると同時に多くの世界システムの欠点とその恐ろしさに気づくのである。とてつもない数の人々が窮地に陥ることに賭けるということに対しての葛藤。

リーマンショックを理解するきっかけとしてこの映画を見ることもいいと思う。
のすけ

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