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悪意の眼のニューランドのレビュー・感想・評価

悪意の眼(1962年製作の映画)
3.8
✔️🔸『悪意の眼』(3.8)及び🔸『境界線』(3.5)▶️▶️

大寺さんのシネマテークを名乗る、文芸坐の催しは問題が多い。料金も作品を考えてもあり得ない高さだし、不定期の金曜日の19時に一回上映だけ(昨年はストレンジャーで再映も少しだけやってたようだが)でこんな時間誰が空いてるんだ、といった設定。配給権買取りではないので、権利者との交渉が大変だと思うが、興行と線は引ける2.3回は設定は必要だ。おまけに上映後の解説が実に下らない。読んだゴシップらしきを本人だけか喜んで語ってるだけなので、阿呆臭く、今回はと思って聞くが必ず半ばで退出する。本当に自分で体験か、それに近い事から始めないと。ネット世代の特質か、旧世代の小林信彦や森卓也·山根貞夫の1/10でも人間性が、あればと思う。
また、番組選定も知れ渡った、安定路線もの。今回で100回らしいが、観れた1/10位は、既に観た物の、嘗てはフィルム上映で字幕付け無理の物のデジタル時代で容易字幕付け版での再見が殆ど。ワクワク感は少ない。本人はより安定すれば、真の知られざる傑作を、目指してるらしいが。
100回の中でも今回のシャブロル特集は5回目らしく、入手·交渉·売上げ共に安定してるのだろう。ノースーパーの代表作をスーパー入りで観たいのが何本かあったが、悉く仕事と、被った。今回の金曜日は3回中2回空いてたが、ノースーパーで観ても特に傑作レベルはなかったし、『境界線』等は聞いた事もない。
『悪魔の眼』。極めてシャープな構図やカメラワークが詰まっているが、それが滑らかさ·密度に高じて行かず、展開も、幸せ·親密·気楽は、演じられるだけで、互いの屈辱·嫉妬·復讐、貧しさとブルジョアの階級差、めくって出てくる愛の形、がかなり片側だけが突っ走る歪みとズレが、冷やかに次々に明かになる。『いとこ同志』的な近親的な苛つきの心理戦から、『不貞の女』の煮詰めへと。しかし、それでもシャブロル色に染まらない。結果、この発想の転換と冷やかさは、まるで吉田喜重作品のようだ。
シャブロルも、師匠のヒッチコックもそうだが、あからさまな異化効果で全編を進めて行くことはなく、登場人物と観客は、不安定や裏切りなりに意識と表現が抜きがたくリンクした緊張·一体·密度を狙い実現しながら進んでいたと思う。しかし、このドイツに派遣された物書きは、作家と思えない、鵜のみに出来ない論理的·感覚的希求を語り行動し続ける。ブルジョアの売れっ子作家·その幸福夫妻の近づきになろうと、屋敷に偶然もはたらいて出入りするようになり、その素直さ·明るさ(の演技)を気に入られ、瞬く親密になる。しかし、貧民故の嫉妬や憤りからの復讐の心が、ふとした不正直からの不祥事へ「自分の責任だ。受け入れるが大事」という嗜めで、うづきだす。暗い面を見せて、1人の時の妻と懇ろ·愛の告白で落とそうとするもいなされる。何かあると時折出かけるミュンヘンへ追跡、愛人の存在を知る。それを盾に再度迫るも、「私達は(動ぜず)強い。私達はどん底同士で知り合い、救いあった」と平然。夫の側にバラすも、同じ強さ。しかし、逃げ回る妻を刺殺し、主人公を「哀れな奴」と言う。
大きめ前後移動、テーブル間に対峙や門辺での逆(縦図)に回り込み、フォローらのダイナミック移動、俯瞰やローや縦·CUの鋭い図、望むより遥かに跳梁する回想ナレーションと不安な音響、が焦りと妙な明るさは、前後大きく行き来らあるも、即場的で、絞りやカメラの手持ち揺れらを不安定ヴィヴィド追いのミュンヘン·シーケンスから不穏を隠しもしなくなり、その上の真相やより強靭さを増してくる。これ程、観客を突き放し、自己世界を悠々と泳ぎまくるシャブロル作品も珍しい。焦り·憤り·不安·スリルとサスペンス、論理を素通りする鮮やかさで、勝手に悦に入ってるような作品はない、痛快だ。作品として、いいかどうか、現実にありうべき話なのか、どうでもいい、となる。
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さて全く聴いた事の無い、観れば正真正銘初めての『境界線』。仕事帰りに文芸坐を覗くと、後2か3日間で残り数枚とか。そんな著名作だったかと反射的に買うが、後で聞くとどうやら初物買いが集中したらしい。
作品も、締まった鋭さ、とろけ出る黒い魅惑、が少なく、適度に平均的に纏まった、何時までも寝っ転がって観れるような程よい個性や我のない語り口。ドイツ占領下と、傀儡仏政権下の、形だけの(しかしドラマ·観念上は色々はたらく)境界線辺りの、住人·独軍·侵入者と脱出者を、大きなズームとまろやかに回り込むのや横へ(フォロー)の移動併さり、縦めや90 °·CU含む異サイズ·切返しや対応や、どんでんや·俯瞰め定期の全図退きめ、で、音楽や美術·時代色しっくりと、適度の甘さ·柔らかさで描く、一般的より少し高級な時代サスペンス映画の見本のような作。その中、河面の流れや照り返し(森もか)が信じがたく美しいが、中盤辺りから逆方向に、不意にタッチが時折、読めない不安定·揺れ翔び·くっつきの場面を見せてくる。ユダヤ人騙しの男への私刑、毒薬飲んで眼前自殺の医師、囚われの英軍通信士の独軍偽っての運び出し、不気味追っ手との追跡と闘い、諦観から反転·独軍へ銃を放つ貴族将校、らの場面。画面が不安定に、手持ちフォローやクレーンの不可解揺れ動き長め、対応カットや図の間省くくっつきや被りの語り速度ら。人物は他にも、反骨と燻り屈折秘めた、店持ちや舟絡みや神父らの住民、勝利への道疑わずも収容所行きの地主貴族の英人妻、独軍もドイツ未來にペスミスティックな大佐、不気味に追い詰める憲兵?らもいて、その煮詰めだけで見せて行けるのに、敢えて安定映画性を壊す、分かる者だけに伝える表現と流れの狂気を挟むシャブロル、やはり、感心させる、スタンスの毒。
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