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ユートピアのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

ユートピア(2018年製作の映画)
3.1
【サンクスシアター12:インディーズが生んだ逆異世界転生もの】
Mini Theater AIDのリターンであるサンクスシアターで一時期話題になったファンタジー映画『ユートピア』を観ました。本作は、下北沢にあるミニシアター・トリウッドが製作に入っており、なんと劇中で話される異世界の言葉ユートピア語を文法から作り上げるトールキンスタイルで構想7年製作5年の長い歳月かけて創造されている。インディーズ映画の力強さを感じる一本でした。

異世界転生ものといえば、大抵は現代社会で陰日向にいたものが突然死ぬなどしてファンタジー世界に飛ばされて人生の再起を図りがちである。本作は逆のことをしている。まず、そこが興味深い。

ある日、まみ(松永祐佳)が悪夢から目を覚まと、床に斧のようなものが刺さっている。恐る恐るベッドの上を見ると夢で見た女の子が寝ているではありませんか。むっくり女の子が起きると、何かを伝えようとしているのだが、英語でもない東欧系の謎の言語を話していて全く理解できない。通常、異世界転生ものでは都合よく言語の壁は解消されがちだ。あのリアル路線な「本好きの下克上」ですら、異世界の転生前の世界にない言葉だけ通じない設定にしているくらい言葉の問題は厄介なので御都合主義で処理されてしまう。

しかしながら、『ユートピア』では泥臭い会話の積み重ねで自己紹介する様子が捉えられている。「私の名前はベアです」とユートピア語でゆっくりと話す。そして自分を示しながら再度「ベア」と言うことで、自己紹介を行なっていることを表現する。そのルールを学習したまみが、同様の方法で日本語でまみと話し意思疎通を取る。

言葉が通じないので、その都度立ち止まってゆっくり伝えたいことを噛み砕いて話す。まみは、そもそも彼女が使っている言葉が何語か判断がつかないので、時折「Where?」と英語を織り交ぜる。その繰り返しにより、いつしか言葉が通じなくても心で通じるようになる。

海外留学すると、言葉の壁が少し解消された頃に訪れるソウル・トゥ・ソウルのコミュニケーションというものを本作では緻密に描いていたのだ。本編で描かれる2つの世界での軋みが混沌を生んでいく物語やインディーズにしては本格的なVFX以上にこの演出に心が奪われました。

VFXに関しては、ゼロ年代初頭の日本の大作映画っぽい古臭さがあってちょっと胃もたれするものがありましたが、映画に対する情熱が全編に渡って伝わってくる映画であり、これが現実の「映像研には手を出すな!」かと思いました。
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