陸上部のエースで活躍するみちるは、彼氏に体を噛んでもらう事で自分を保っていた。ある日部長の新田が大事にしてる日誌を勝手に持ち出し、詳細に綴られた練習の記録とともに、部員の悪口が書かれていた。みちるも新田に自分の秘密を話し2人は距離を縮めていく。しかし新田は部員たちともめ、部活を辞めてしまう。
卒業制作として竹内里紗が手がけた青春ドラマであり、何者でもない自分の理想と現実の間で揺れる心情が満ちていく月と交差させ、瑞々しくも幻想的に、詩的でありながら、キャラクターにしっかり寄り添い、何気ない日常をしっかりと構築させ、丸みのある物語を紡ぎあげている。
苗字で呼び合う彼女たち、どこか他人行儀な絶妙な距離感、悩みを相談し合うわけではなく、ただ一緒に時を過ごす。そんな何気ない会話の中で、自分にとって些細なことが相手を元気付けていたり、もちろんその逆もある。そんな絶妙な人と人との関係を日常の会話にしっかりとのせ、自然な流れの中で見せていくのが絶品である。満月の魔法やニコちゃんマークの癒しなど、ほんの少しのことで心が満たされたり、また新月のように欠けたり。満月すぎると逆にそわそわしたり。
何者でもないと嘆くが、何者かにならないといけないのか?それは今自分がもってるものを抱きしめ、大事にする事で見えてくるのだろう。不平不満は絶えないだろうが、今を懸命に生きて、今を大事にすることで、未来は見えてくるのだろう。心が満ちた時は思いっきり楽しめばいい。そう、何者でもない自分を認めることで未来の扉は開けるのだ。