えいがドゥロヴァウ

グランドフィナーレのえいがドゥロヴァウのレビュー・感想・評価

グランドフィナーレ(2015年製作の映画)
3.8
まー何とも残念な邦題ですよ
未だに終活ブームを意識しているんですか?
もう終わっていますよ!
ギャガさん!

この映画は如何にフィナーレ(死)を迎えるか、ということではなく
あくまでもベクトルは生(もしくは性)に向かっています
ミス・ユニバースの裸体を"観賞"して爺さんたちが最後の恋を堪能する、なんてのはまさに象徴的で
そういった精力を抱く爺さんは魅力的ですね

死は本作においてはある種の大いなる挫折であり
この映画に登場するあらゆるキャラクターは生に対する渇望を原動力として存在しているように見受けられました
なので邦題は真逆ですね

老い先短い偉大なる音楽家(マイケル・ケイン)と老練の映画監督(ハーヴェイ・カイテル)
非常にいい感じに醸されて熟成した爺さんたちをメインに据えての原題
"Youth"=若気
若気は活気であります
若さとはあらゆることを受け入れ吸収できることで
老いとは凝り固まり煮詰まってしまう状況
そしてそれを自己正当化できてしまうような精神性です

音楽家は音楽に人生を捧げてきました
家庭を顧みることもなく
その娘は父のマネージャーとして従事していますが
父として或いは母の夫として
このジジィは自分らに一体何をもたらしてきてくれたのか?というフラストレーションを抱えております
このような状況は芸術家当人にとってはありふれたジレンマかとも思えます
しかし、それだからこそ
彼が代表作(それも彼自身がウンザリするほどの)を指揮することを辞めてしまった理由は
やはり感動的で涙がちょちょぎれます
マイケル・ケイン爺がシニアクライシスの通過儀礼を経て
心に若さを取り戻す姿は
身に染み入るものがありますね

本作は様々なキャラクターを描く群像劇であり
木の幹があってそこから枝分かれしているのではなく
個々の要素が総体となって作品のテーマ性をあぶり出すという
非常にヨーロッパ的な構造を孕んでおります
それもそのはず
イギリスやアメリカのキャストを用いりながらも
監督はイタリアのパオロ・ソレンティーノ
前作の『グレート・ビューティー』はコテコテで荘厳なロケーションを打ち出しまくった宣伝をしていたので(ザ・Bunkamuraル・シネマ的な笑)
あまりそういう押しつけがましい美しさは受け入れられないので敬遠していましたが
本作は無駄がなくとても洗練された美術や映像が目を惹き
映画的な歓びを感じられましたので
よかったよかったです
折を見て前作も鑑賞します

あざす

あ、あと劇中の音楽などの音質にとてもこだわっている作品なので
是非ともご興味のある方は劇場で鑑賞することをオススメいたします