キッチー

グランドフィナーレのキッチーのレビュー・感想・評価

グランドフィナーレ(2015年製作の映画)
4.0
その老マエストロの指先はカウベルや鳥の羽ばたき、牛の鳴き声までも芸術に昇華させていく。

スイスのアルプスで休暇を楽しむ人生の成功者(セレブ)たち。この高級リゾートホテルは医療も娯楽も充実していて、時がゆっくりと流れている。
滞在しているのは、引退したサッカー選手、僧侶、音楽家、映画監督、俳優、等々、人生の成功者が多いのだが、高齢の人たちが多く、リゾートというよりはどこか介護療養施設のように見える。

引退した作曲家であり指揮者のフレッド(マイケル・ケイン)のホテルでの休暇はゆったりしている。しばしば、同じく休暇中の親友、老映画監督ミック(ハーヴェイ・カイテル)と談笑して過ごすが、どこか人生を諦めているようなフレッドと未だ作品の制作意欲に溢れているミックは対照的だ。
しかし、そんなゆったりした中でも転機は訪れ、二人の人生を分けていく。

年を取った人生の成功者たちが、その先どう生きるのか、考えさせられる作品。誰にでも明日はあり、それは高齢者でも例外ではない。ひっそり脱け殻のように生きるのか、毎日、感動を求めて生きるのか...
自分の選択にかかっているということを強く意識させられた。

映像美と静かな空間を提供してくれる作品で見ていて心地よく感じたが、ミスユニバースまで登場して映像美に花を添えてくれる。音楽も素敵で、マエストロが指揮を執る「シンプル・ソング」も美しい曲、今さらながら劇場で観なかったことを後悔した。

パオロ・ソレンティーノ監督の作品は初めてだったが、注目して観ていきたいと思った。
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