Laura

サウルの息子のLauraのレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
3.5
カメラは強制収容所の中で前から後ろから横から、ひたすら主人公を追いかけてゆく。深度の浅い映像で主人公の背景は常にボカされ、捨象される。それ自体映像的にはかなり思いきった試みなのだが、収容所で話される様々な言語や土を掘る音、弾丸の音が臨場感を添えてドキュメンタリーのような効果を十分サポートしている。主人公の背後ではゾンダーコマンドの反乱という実際に起こった出来事がいかにもドラマティックに進行していたりするのだが、彼はそれにはほとんど興味を示すことなく自分だけの「使命」に没入する。完膚なきまでに人間性が破壊された世界の中で、おそらく最後の一線を守るために。アウシュヴィッツを語る人称は一つではなく、まさに犠牲者の数だけ言葉があるのだということを考えさせる作品。
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