垂直落下式サミング

アクアマンの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

アクアマン(2018年製作の映画)
5.0
海猿要らずのパワー系は由緒正しき水属性。正義軍ジャスティス・リーグの一員としてバットマン、ワンダーウーマンらと共に地球の脅威に立ち向かったスーパーヒーローのひとりアクアマンは、アトランティス帝国の王族と人間の灯台守の血を引く半神半人の海の戦士。海の力のすべてを我が物とし地上への武力による侵略攻撃を画策する異父兄弟を倒すべく、超人アクアマンが立ち上がる。
まずポスターがいい。透き通るような海の青を背景に、主役が武器を掲げてまっすぐ前方を見据えている。毎日毎日、どんよりした曇天ばかりが続いたDC世界の空に射し込んだ光、さわやかな晴れ模様、それだけのことがなぜこんなに嬉しいんだろう。
見事な娯楽作品であり、色彩豊かな海底と怒濤の物量によって目を楽しませてくれる。展開も陽性かつアップテンポなのに加えて、ストーリーが止まりそうになると刺客に襲撃され背後で爆発がおこるシステムを導入しているため、ドラマの停滞感がきわめて薄い。
主人公の知能指数の低さは好感のもてる範疇だが、事態を左右するような失敗をしでかす彼の未熟さも、しっかりと描いている。
すべてに手を差し伸べるべき神のような存在であるにも関わらず、人命救助の最中に命の選別をしてしまったことで、彼は新たな敵を生んでしまう。たとえ悪人だったとしても、困っている人は助けるのが人情でしょうと、これは社会に対する普遍的な問い掛けだろう。ブラックマンタ襲撃時に、アクアマンが瓦礫に足を挟まれて動けなくなった男を助けるシーンをわざわざ入れているのは、当て付けのようだ。
このアクアマンの未熟さは、後半、彼が自らを赦し特異な出自を受け入れることで、母なる海のすべてを味方につけながら戦う視覚的な表現によって解消されていく。本家本元のギリシア神話から、ヴェルヌにラヴクラフトからラッセンまで、様々な物語から深きものどもが参戦する海底大戦争が爽快。上下左右の位置関係が混濁するトリップ感覚を味わうことが出来る。
逆に人間の世界でのアクションシーンは、逃げるメラ王女を追走するアトラティス兵たちが、住居を破壊しながら飛んで跳ねてを繰り返すのに、縦横上下の位置関係がしっかりと把握できる。さすがのジェームズ・ワン、スタンダードな肉弾戦はお手のものということか。
潜水艦内部の戦闘での、ぶん殴られた敵がカメラと一緒に倒れ込むような演出は、『ワイルドスピード SKY MISSION』でボブス捜査官が披露する必殺技「ロックボトム」のカメラワークを発展させたもので、今回はそれをさらにアクションの自然な流れのなかで炸裂させており、粗暴な剛力っぷりが決まっていて気持ちいい。
音楽にも気が利いていた。最初にアクアマンが登場してドヤ顔する場面に流れるのは重低音のベースソロだが、後半はDCコミックの映画らしい重厚なオーケストラサウンドが目立つようになっていく。ちゃらんぽらんなロックチューンから、神話を思わせる壮厳な古典へと回帰し、最後には子供に読み聞かせる絵物語のような歌詞で締め括られるのは、現代の貴種流離譚たる漫画映画として、勇気によって英雄が誕生する物語を、最後まで投げず崩さずしっかりと語りきろうとする意識が、作り手にあるからだろう。
力を持ったものが、人のために尽くし善を成すことの正しさを、疑いもない前向きさで肯定的にみせてくれる。それがヒーロー映画の役目であるし、存在意義だと思う。