マリオン

エベレスト3Dのマリオンのネタバレレビュー・内容・結末

エベレスト3D(2015年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

地球上で最も高い場所であり、危険な場所であるエベレストで起こった史上最悪の遭難事故「1996年のエベレスト大量遭難事故」を映画化。人間ドラマやディザスター的描写にも力は入っているのだが、「エベレストという自然の頂点が存在し、そこに挑む人間たちがいて死ぬ人間も大勢いる」というシンプルで残酷な事実こそに注力を注ぎ、その達観した姿勢がなんとも味わい深い。

今作における評価は見る前にどのような期待を持っていたのかによって評価が割れるのではないかと感じる。まず実話なので過度なディザスター描写は少ないのでディザスタームービーを期待すると肩透かしを食らうことになるだろう。次に豪華なキャスト陣が集結した人間ドラマは、十分に観客の心を掴んでくれる見応えはあると感じた。ただ登場人物が多いために深くて濃厚なドラマはあまりなく、みんなゴーグルや似たような登山の服装で登場するのでなかなか見分けがつかない部分があることが難点だ。また群像劇としてもこの難点によって少々面白味を感じにくいし一つ一つの描写も分かりづらいかもしれない。だが今作で描きたい肝はそこではないと感じた。

物語はロブ・ホールらが運営するアドベンチャー・コンサルタンツ隊の様子がメインで描かれる。優れた登山家であるロブのもとには登山が趣味である病理学者のベック・ウェザーズや前回のアタックで登頂できなかったリベンジを果たすためにコツコツとお金を貯めてきた郵便局員のダグ・ハンセン、アドベンチャー・コンサルタンツ隊への取材のために同行するジョン・クラカワー、今回の登頂成功で七大陸最高峰制覇の記録がかかっている難波康子など人種や性別、国籍を超えて様々な理由を胸に抱いてエベレスト登頂を目指す。だがすぐにエベレストに登るわけではない。ヘリコプターでベースキャンプに到着してからは、空気の薄い山に慣れるために何度も練習のためのトレッキングを行い、ロブ達は手厚く彼らのサポートを行う。ここできちんと体を順応させることができなければ高山病や肺気腫などの重病を発症し、最悪の場合は死に至ってしまうからだ。そしてエベレストの頂点を目指すのは彼らだけではない。ロブとは旧知の仲であるスコット・フィッシャーらが運営するマウンテン・マッドネス隊や、南アフリカ隊、台湾隊など様々な隊がひしめき合い、ベースキャンプはかつてない盛況ぶりを迎えることとなる。登山がブームになり様々な登山ガイド会社が集結したためだ。

そうしてそれぞれのエベレスト登山がスタートする。だが登山開始数日前に4つの隊が同日に登山を開始する日程であることが明らかになり、各隊で日程調整しようとしたものの南アフリカ隊によって決裂してしまう。アドベンチャー・コンサルタンツ隊とマウンテン・マッドネス隊でお互い協力体制でカバーするなど対策は講じたものの、案の定数少ないエベレスト攻略ルートでは渋滞が発生してしまう。しかもシェルパ(現地原住民によるガイド)の人数不足や連携不足もあって、きちんとしたルートが整備されておらず、隊のメンバーの技術や体力の未熟さをサポートしていくうちに、下山までのタイムリミットを大幅にオーバーしてしまう。そして夜になると登山日和だった天候が激変してしまい、登山者たちはとてつもないブリザードが吹き荒れるエベレストの山中に取り残されてしまう。

そんな自然の脅威の前に共に頑張ってきたメンバーは次々と死んでいく…アドベンチャー・コンサルタンツ隊のサブガイドは寒さで頭がおかしくなって服を脱ぎだし、ダグは頂上付近で酸素が足りずに動けなくなってしまい滑落死、凍えるような寒さで死に絶える者も後を絶たない。スコットは登山前から健康状態が悪く、過酷な往復も重なって動けなくなってそのまま凍死、ロブも懸命に下山を試みるものの凍傷によって手足が動かず、出産を間近に控えた妻からの無線も空しく凍死してしまう。こんな過酷な状況が後半はずっと続き、まるで我慢大会に参加しているような苦しさがあるし、あんなにメンバーを大事にサポートし続け妻と新たに生まれる子供との生活もあったのに亡くなってしまうロブのことを考えるとやはり悲しい。重度の凍傷になりながらも自力でベースキャンプに戻ってきたベック・ウェザーズやブリザードに巻き込まれる前にベースキャンプに戻れた者など辛くも生き残ることができた人々もいたけれど、最終的に8人の死者を出すことになったこの事件を追体験した後ではなんとも言えない気分になる。

この遭難事故を坦々と描くことで浮かび上がるのは自然の摂理の頂点であるエベレストと自然に挑む人間達が、その時確実に交錯していたという事実だ。エベレストはまさに自然の頂点とも呼べる美しくて雄大な佇まいを見せるが、その世界は過酷で誰も住むことが出来ない。そしてエベレストは人間が生まれるずっと昔からそこにあり続けている。そんな自然の摂理の頂点の前では人間達は無力だ。今回の事故は人手不足、経験不足、健康状態、過密化が進んだ登山ガイドビジネス、仲間との不和、慢心など様々な要因があったことが伺えるが、自然は人間の都合なんて関係ないと突っぱねる。あくまで人間が勝手に自然の摂理に巻き込まれただけで、経験や目的は全く関係がないしあくまで生き残ったか死んだのかという結果だけが残るのだ。でも人間もそれを承知でエベレストへと足を運ぶ。ジョージ・マロリーが「なぜ山に登るのか、そこに山があるからだ」という名言を残したように、一種の知的好奇心をむき出しにして生きるか死ぬか紙一重の自然のサイクルに飛び込む。そんな山に集う人々の独特な連帯感は別に美化しているわけではないのにまるで悟りを開いたかのようでなんとなく紳士的な印象を受けた。そして自然の摂理と山に集う人々の本能を存在を浮かび上がらせる今作の視点はもはや中立的というより達観した視点のように感じた。

またディザスター的な描写や美しい自然の風景、迫力のある3Dに度胆を抜かれる。後ろの氷が崩落してバランスを崩してクレバスに落ちかける場面や、ロープで固定しないとすぐ落ちてしまいそうな細い道は見ているだけでハラハラさせられるし、襲い来るブリザードの脅威はおぞましい。後半からは終始不安定で苦しい場面の連続で心理的にかなり疲れることだろう。そしてベースキャンプに向かうまでのネパールの広大な自然や雪に覆われた山々、氷しかない銀世界、過酷さを象徴する岩壁、底が全く見えないクレバスなど空撮を多用して広大な自然の美しさと死の気配を画面に伝える…見ていて思わず寒気がしてしまうほどだ。3D描写に関しても圧倒的な高低差や背景に連なる山々の奥行きは凄まじく、ブリザードで舞う雪が眼前に迫る。きちんと3Dを意識した画作りがなされているおかげで広大な世界の広がりを感じさせてくれる。あとダリオ・マリアネッリの雄大で神秘的な音使いが印象的なスコアも味わい深い。見事に自然の美しさと残酷さを表していると思う。

もちろん豪華なキャスト陣の演技も見逃せない。まずロブ・ホール役のジェイソン・クラークは堅実な存在感を見せつけてみんなを引っ張っていくし、スコット・フィッシャー役のジェイク・ギレンホールは陽気でまさしく山の男らしいワイルドな姿がとてもかっこいい。ベック・ウェザーズ役のジョシュ・ブローリンは安定のテキサス男ぶりを発揮し、ダグ・ハンセン役のジョン・ホークスは満身創痍で必死に登る姿が、ロブを助けるために奮闘するガイ・コター役のサム・ワーシントンは無骨なかっこよさが、難波康子役の森尚子は華奢な体だけど活力がある表情が印象的だ。そんな彼らを待ち続けるエミリー・ワトソン、キーラ・ナイトレイ、ロビン・ライトも三者三様できちんとシーンの緊張感を持続させながら緩急を与える。

エベレストが持つ圧倒的な魅力に惹かれて登頂に挑む人達がいて、山はそんなことお構いなしに彼らを苦しませ、時にその美しさを見せつける…そんな自然の摂理と彼らの本能にひたすら尊敬と畏怖の念を感じずにはいられない。その事実を達観した視点で描き出した独特な作風はただの娯楽映画ではない唯一無二の魅力かもしれない。

~そこは自然の摂理と自然に挑む人間達の本能が交差する場所~「エベレスト 3D」ネタバレレビューhttp://marion-eigazuke.hatenablog.com/entry/2015/11/15/221847