似太郎

オーバー・フェンスの似太郎のレビュー・感想・評価

オーバー・フェンス(2016年製作の映画)
5.0
【壊す方・壊される方】

冒頭からジョン・カサヴェテス的な騙し絵みたいな画面で始まり、全編に渡って山下敦弘のカサヴェテス愛の炸裂した佐藤泰志原作の男女の結びつきを描いたラブストーリー。

どこか強引なのに説得力のある雰囲気がキム・ギドクの作る恋愛映画にも通じる趣がある。『悪い男』とか『弓』とか。仄かに韓国映画の香りがする。

聡(蒼井優)はホントーにイカれポンチだった。迫真の演技。オダジョーはいつものチャラい雰囲気を封印して心優しいダメ人間を演じている。名手・近藤龍人のカメラが叙情的で美しい。

個人的に尊敬するSSWの鈴木常吉さんが、しっかり者の職業訓練校のオジサンを演じており役者が皆、際立ってて味のある作品。ルサンチマンみたいな満島真之介も匿名的な怒りと焦りを感じさせ、名演だった。

自意識過剰な『深夜食堂』みたいな高田亮の脚本は少しクセがあるのだが、山下敦弘だけあり払拭した感じがあった。負け組の男達をフンワリ優しく包み込む野球のシーンは必見。希望が感じられる、非常に前向きな邦画で安心した。

過去作『リンダ・リンダ・リンダ』や『苦役列車』のような一種のお茶目さはないが、シリアスに徹した山下敦弘も悪くないと思わせるヒューマンな名作。内容が暗くても決してユーモアを忘れない作風がこの人の強みでもある。
似太郎

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