きえ

オーバー・フェンスのきえのレビュー・感想・評価

オーバー・フェンス(2016年製作の映画)
3.7
芥川賞候補に5度なるも41才で自ら命を絶った佐藤泰志さん原作。小説家としての生活を諦めかけた時期に過ごした地元函館の職業訓練校での経験を元に執筆されたと言う。

過去からの脱却、再生がテーマに思えた。
過去と言っても色々ある。
後悔、悲しみ、憎しみ、傷… 皆何かしらを背負って生きてるんだと思う。

本作は壊す人間と壊される人間の物語。
大切な物を壊して来た男と心を壊されて来た女の恋物語は、不器用さに包まれてる。
見てて歯痒い程。

恐らく過去に受けた心の傷から愛を信じきれない女を蒼井優さんが熱演。
攻撃的に相手の愛を試そうとするシーンなどは身震いする程の迫力。
かと思えば、鳥真似をするシーンの滑稽さと愛らしさは蒼井優さんにしか出せない味なんじゃないのかな。
愛らしい中にも切なさが滲み出る感じが”さとし”の心情の表れだと思う。

一方のオダギリジョーさんの不器用さマックスの演技も良かった。壊した物への償いでもするかの如く地味に暮らす男だけど、ある一点で心に溜まってた物が爆発するシーンは印象に残る。

この作品を鑑賞したのは奇しくもノーベル生理学・医学賞受賞の翌日。
自分の壊れた心の細胞を食べ(掃除し)未来に向けて再生して行くまさに今旬の『オートファジー』映画だった。(笑)
それを助けるのはやはり愛なのだと実感。

過去を乗り越え未来に辿り着く為に必要な事…『オーバーフェンス』そして『オートファジー』程良くゆるく、心に刺さった。
きえ

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