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ミスター・ダイナマイト ファンクの帝王ジェームス・ブラウンのcatmanのレビュー・感想・評価

5.0
Mr. DYNAMITE
THE RISE OF JAMES BROWN

公民権運動の推進にも多大な貢献を果たしたジェイムズ・ブラウンは、しかし音楽家としては歴史上で最も過小評価されているアーティストの1人なのではないかと常々思っていて、Mr Dynamite, Soul Brother No.1, The Godfather of Soul, The Hardest Working Man in Show Business, Funky President, etc... これらのどれも彼を形容するのに十分ではないと思える。彼が居なければマイケルやプリンスはもちろん、ひょっとしたらヒップホップも生まれなかったのではないか。全人類にとってJBが如何に重大な存在であるか。

本作は2016年に公開されたドキュメンタリー。プロデューサーは、チャドウィック・ボーズマン主演のJB伝記映画『Get On Up』と同じくミック・ジャガー。兄弟作とも言えるこの2作品を同時期に制作した彼の仕事は素晴らしい。

未公開映像が豊富で資料的な価値も高い本作、数あるライブフッテージの中で1971年のパリ公演を軸に持って来たのは個人的に超ヒット。前述の『Get On Up』でも確かこのライブ音源を使っていたはず。きっとミックのセンスに違いない。違ってたらすみません。それにしても、どのライブでもJBの熱量は異常に高く、こんなもの生で観たらアドレナリンが出まくって大変な事になってしまうだろう。実際、ライブ中に映し出される観客の熱狂ぶりは凄まじい。ただ全体の構成としてはパフォーマンス映像の割合は決して多くは無くって、従来のドキュメンタリーよりもJBの人物像を深く掘り下げるために関係者の証言が中心になっている。そういう意味でJBの音楽にどっぷり浸かりたい人にはかなり物足りないかもしれない。殆どが生殺し状態ですからね。

自分が最も興味深かったのはThe JBsのメンバーによる最新インタビュー。本人が既に亡くなっているので遠慮が無いのか、数々の歯に衣着せぬコメントがJBの素顔をリアルに浮かび上がらせている。実に面白い。音楽面の天才的な資質と噂に違わない強烈なリーダーシップによる独裁ぶり、そして計り知れない成功=富と名声への情熱と執念。かの悪名高きステージ上での罰金システムの現場を抑えた映像には思わず爆笑。少年院を出所して以来、生涯の付き合いとなるボビー・バード以外に親しい友人は無く、想像していた以上に孤高の一匹狼であったことがはっきりと証明されるため、つい切ない気持ちになってしまう。ただそれも彼の悲惨な生い立ちを考えれば無理もないことで、だからこそ他の誰もが持ち得ないハングリースピリットと強い意志をもって比類なき偉業を成し遂げることが出来たと言えるのだと思う。

James Brown IS Black Power!

以下メモ。ネタバレあります。

やっぱりファンク誕生の瞬間を追想するエピソードにテンションが最高にアガる。『Cold Sweat』のホーンのリフがマイルスの『So What』に着想を得ていたという痺れる話は本作が初出なのでは。JBの原案を楽曲としてまとめ上げたピーウィーの功績はもっと讃えられるべきだと思う。On the ONE!!

ヒップホップ/ブレイクビーツの最重要曲『Funky Drummer』の誕生秘話が最高。ドラマーのクライドが「あの曲は大嫌いだ」と言ってるのには驚き笑ってしまう。その理由と背景を知ればナルホドね〜となる。

メイシオの舎弟メルヴィン・パーカーのユーモア溢れる温かい人柄に感銘を受ける。バンドにスカウトされた時に兄貴も一緒にって推薦した話、そして何よりメイシオを庇いJBに向かって咄嗟に銃を向けたエピソードが泣ける。

JBへの恨み節ばっかりのフレッド・ウェズリー、長年に渡ってバンドの屋台骨を支えたMVPのひとりではあるが相当辛い思いをしたんだろう。それにしても彼の言葉には殆ど愛が感じられない(笑)

ブーツィはいつでもどこでもブーツィ。笑顔を絶やさない。この人も人格者なのだろうな。愛が深い。兄貴のキャットフィッシュと一緒にスカウトされたエピソードも良き。

ケイプマンのダニー・レイ、バンドメンバーほどJBに不満を感じていないのは当然っちゃ当然か。往年の流れるようなMCが、今では滑舌が流れ過ぎちゃって英語字幕のアシストが表示されるのが可笑しい。

登場するバンドお抱え女性シンガーはマーサ・ハイひとりだが、他の男性メンバーには無いJBに対する優しい視線が感じられて少し救われる。

クエストラヴの曲解説が良い。彼が叩く『Funky Drummer』もっと聴かせて欲しい!

アラン・リーズの客観的なコメントが全体に絶妙なバランスをもたらしていて良い。やっぱり信頼できる男だ。

Payback!!
Revenge!!
I’m mad!!
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