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顔のないヒトラーたちの一人旅のレビュー・感想・評価

顔のないヒトラーたち(2014年製作の映画)
5.0
ジュリオ・リッチャレッリ監督作。

1963年に西ドイツで行われた「フランクフルト・アウシュビッツ裁判」を題材とした社会派実録ドラマの力作で、若き検事の視点から戦中ドイツの負の歴史と犯した罪を事実にフィクションを織り交ぜ浮き彫りにしていきます。

本作は、戦後復興に沸く西ドイツにおいて、二次大戦時アウシュビッツ強制収容所で犯罪行為を行った元親衛隊員のドイツ人たちを初めて自国の法律に基づき裁いた“アウシュビッツ裁判”開廷までの過程を描いた作品で、戦後罪に問われないまま平然と暮らし続けている親衛隊員の隠された罪を白日の下に晒すべく、収容所から生き延びた生存者たちからの証言や関係資料の収集に奔走する新米検事の姿を描いています。

アウシュビッツにおけるユダヤ人虐殺の真実を知らない若い世代の検事の姿を通じて、二次大戦時収容所で犠牲となった無数のユダヤ人の悲劇とナチス・ドイツによる非人道的な蛮行の全貌を浮かび上がらせていくと同時に、虐殺に直接的に関与した一部の人間だけでなく、ユダヤ人大量虐殺をドイツ全体=自国民の罪として認識していくまでを描いた“内省的”な戦争事後ドラマとなっています。

『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』(2015)に連なるナチス戦犯断罪物の力作であり、本映画とスタンリー・クレイマーの往年の傑作『ニュールンベルグ裁判』(1961)を併せて観ることで戦後ナチス裁判の歴史を時系列順に理解することができますし、根源的な悪(ヒトラー総統)とそうでない悪(凡庸な悪)を明確に区別した『ハンナ・アーレント』(2012)も観ておくとナチス・ドイツの罪に対する解釈の幅が拡がると思います。
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