MasaichiYaguchi

残穢 住んではいけない部屋のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.9
「触らぬ神に祟りなし」とか、「君子は危うきに近寄らず」という言葉があるが、人は恐いもの見たさの衝動を抑えられないし、更にはそれが危ういものだと知らず近寄ってしまう。
小野不由美さんの山本周五郎賞受賞の小説を映画化した本作には、そういった人間の性や業が渦巻き、真綿で首を絞めるように我々観客を恐怖の世界に導いていく。
ハリウッドを中心とした洋画のホラーやスリラー物と本作が一線を画すのは、古来より連綿と続く日本の怪談にある情念の世界を描き、メンタリティに訴えるところ。
映画は、小説家である「私」のもとに届いた一通の手紙を切っ掛けに、差出人である女子大生の「久保さん」の部屋で起こった怪異現象を調べていく過程で、周囲を巻き込みながら恐怖の実態が発露され、それが拡大していく。
この作品の特色は、この二人が怪異現象の発端を探るうちに、恰も源流を遡るように何世代にも亘るおぞましい過去が紐解かれていくところにある。
紐解かれた幾つもの過去にあるのは、血縁や地縁に基づく呪いの伝播。
こういうジメジメと陰湿で人にピタッと寄り添うような恐さが如何にも日本的だと思う。
中村義洋監督は、洋画のように恐怖の実体をはっきりと表現せず、敢えて捉えどころのないものとすることで恐怖を倍増させている。
本作の完成披露試写会の舞台挨拶で竹内結子さんが「怖い映画が苦手な方、そうでない方がいらっしゃると思いますが、そうでない方、観終わって大丈夫だったと油断しないでください!」と話されているが、こんなものかと高を括っていると、本作の恐さは後からやって来る。
終盤で怒涛の如く繰り広げられる恐怖の連鎖と拡散、そして最後の最後に観客に向けて静かに放たれる時限爆弾のような仕掛けが黒い靄のように心に残る。