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残穢 住んではいけない部屋のayatoonのレビュー・感想・評価

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息継ぎの無い序盤、久保さん(橋本愛)の部屋での沈黙のワンシーンで思わず窒息しそうになるも、それ以降、大きく固唾を呑むシーンがこれといって思い返せ無い。押し殺した全体像・キャラ造形は素直に素敵だと思うが、シンプルな恐怖描写に関しては、持続的な動悸には繋がらず、至らずというところで、期待値からは下回った印象。(霊体の操作に顕著な)さんざん使い回されているJホラーの文法に頼りだすところも、ちょっと飽き飽きする。ただ、誰が視ているのか判別できない視点カットの連なりには、意匠が見え隠れしていて、これは映画の美点。他、隣人の主婦が扉から顔を出すカット、そこに実は隠れている子供という一連とか、首吊りに丁度適している様にも見える久保さんが座っていたスツールを、深く捉えるカットなど、不実で妙な断片の鏤め方が、いい具合に引っ掛かってきて(イメージの連鎖として)愉しい。中でも、『ほん呪』を脳裏に掠める、あるフラッシュの演出(による表出)が白眉。物語に関しては、過去・歴史を遡行していく、階層構造である物語を成立させるが故の(原作への考慮を払う)丁重過ぎる足取りと、射程距離の広いJホラーを見据える解って欲しげな記号・イメージ表現、そして、ディテールへの無駄な心配性が、妙に推理性を欠きながら進行していくので、ミステリアスを醸成するドラマとしての奥深さは、根本的に特筆することは余り無いけれども(そもそもそちらには、比重は置いていないだろう)、残穢による不条理に収斂する物語の属性は、『鬼談百景』を継承して同様、その怪談たる怪談の、宙吊りの厭らしさこそに真価が現われるからして、視覚的・聴覚的に訴えていた伏線の回収から傾れ込む、あのエンドクレジットは、「驚き」というか「怖さ」を呼び起こす/「何も終わっていない」ことを告げる、禍々しい一撃であったのでは。そこで欲を言うならば、(過去の語りのシーンのような)肌理の粗いズームアップで、是非にもあれは視たかったところではありますが。取り敢えずは、触穢を巡る、一定周期で公開される伝播系ホラー映画の中でも、(人に話を聞いて回る・喋り回るだけの)至極地味なカテゴリだけれど、人が動き回ることで不幸になる範囲が広くなっていくという、知らず知らずの道連れの(メタ的にも効果を現す)罪深さが後味悪くて、客電が灯ると同時に笑みが何だか引き攣る映画です(しかも、松竹映画のハッピーエンドの法則を上映前にしれっと流しておきながらという罪深さもある)。
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