beachboss114

ナショナル・シアター・ライヴ 2015「スカイライト」のbeachboss114のレビュー・感想・評価

5.0
不倫もここまで明るくチャーミングに描かれると、罪悪感が薄れてむしろ爽やかですらある。ドロドロせず、殺伐としていないから、なぜかほっこりする。

オトナな関係というか、達観というか、依存関係が泥臭くない。お互いの責任や自覚のもとで成り立っているのは、やはり文化的な成熟度の違いか。

男性側の短絡的な身勝手さを描きつつも、女性側の一方的な被害者意識や責任転嫁にもなっていない。むしろ、いつまでも成長しない男性側への軽蔑や嘲笑と同時に、憐れみや赦しも感じられる。

年の差があると、いつまでも小娘扱いをしてしまいがちだが、久しぶりに会うと相手だって年を重ねて精神的にも人間的にも成長しているのは当然。そこをナメてかかっていて一本取られる姿が痛快でもあり、可愛らしくもある。ひとえに演者の魅力や表現力によるところも大きいが。

2幕目からは一転して、社会派の議論へとシフト。「こういう問題に自分の時間や労力も割く気がない人は、黙って引っ込んでて」というセリフで拍手が起こったところは実に気持ち良かった。

一通り社会問題に切り込んだ後は、再び二人の関係性へと収斂していく。

一見、成熟しているかのように見えていた関係から、会話で時間を遡っていくうちにお互いの虚勢や痩せ我慢の鎧が剥がれ、別れた理由や謎が徐々に解き明かされていくという構成が巧い。

どんなことがあっても、毎日、朝はやってくるし、気の利いた朝食と話相手がいれば満たされる。本人同士が別れたとしても、愛情そのものがなくなってしまった訳でもなければ、附随する家族の絆まですべてなくなるものでもない。

天窓(スカイライト)から射し込んでくる光が温かく照らすのは、恋愛の一時的な情熱の先にある「擬似家族的なつながり」の充実感。それもまた、幸せの一つの形であると。


で、以下、余談。

舞台美術が素晴らしく、特に、壁が透けているから、ドアを閉めて立ち去った後の動作が見えるという仕掛けが秀逸。

ただ、全編を通してカメラワークが拙くてウザイ。いちいちカットバックしすぎ。しゃべってる側のアップばっかり追いかけて芸がない。せめて、掛け合いのところは「引き」にしてほしい。

「今、ここを見てくださいよ」と言わんばかりのカット割は演劇に対する冒涜以外の何物でもない。二人の指が絡み合うアップに至っては、センスなさすぎて思いっ切りシラけた。

まぁ、NTLという映像企画の特性上やむを得ないし、こうして本場の舞台に触れることができる貴重な機会であることを感謝すべきなんだけど。
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