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ミッドナイト・スペシャルのEikeのレビュー・感想・評価

ミッドナイト・スペシャル(2016年製作の映画)
4.2
面白い作品なのだがその面白さを伝えにくい作品でもあります。
監督・脚本のジェフ・ニコルスは生粋のインディー映画派のクリエイターで本作もインディーズ製作であっても可笑しくない作風になってます。
ワーナー映画は製作費が低い(約20億円)こともあってGOサインを出したらしい。

結果的にその年のベストテンにもピックアップされたり、批評家筋からも高い評価を受けることになった模様。
主演のマイケル・シャノンとニコルス氏の付き合いは長く、というかほとんどの作品で組んで来た訳で気心は知れている訳でそれが巧く生かされている雰囲気。
本作も元々はシャノン氏が真夜中にクラシックなアメ車を飛ばしている情景のイメージがニコルス監督にふと浮かんだことから始まったプロジェクトであったのだそう。
しかしこうして出来上がったのは人智を超えた「能力」を備えた少年アルトンとその父親ロイの逃避行を描いたSF映画になっているのだから面白いものです。

本作の特徴はいわゆるハリウッド製のSF映画にありがちなお話でありながらアプローチは完全にインディーズ映画のそれになっている点。
つまりあくまで描きたいのは「ドラマ」であってビジュアルやスペクタクルではないということ。
物語をおし進めるのは役者の演技と演出であり、邪魔になる余計な説明などはほとんど刈り込まれております。
その点を説明不足・不親切と捉えるか観客に思いめぐらす余地を残していると感じるかで本作への評価は分かれるのかもしれません。

物語の骨格自体は「E.T.」や「未知との遭遇」そして「スターマン」といった80年代の米国製SF映画への憧憬をストレートに表しているような印象。
謎の力を持つ少年とその力を利用しようとするカルト組織。
少年をその組織から奪還し逃避行を繰り広げる父親と彼に力を貸す男。
少年のもつ力を利用しようとする国家機関の思惑に疑念を持ちつつ追跡に加わる研究者。
そして少年に呼び掛けてくる謎の存在とその目的とは…。
と設定だけを取り出せば正に王道のSFドラマ。
しかしシリアスな本作のアプローチは昨今のアメリカ製SF映画ではかなり異色。

その他多くのジャンル系の作品の様にCGスペクタクルを盛り込んでお茶を濁すのではなく、ドラマとしてシリアスにセンス・オブ・ワンダーを感じさせてくれる本作の様な作品はかなり貴重な訳で、私は大いに楽しませていただきました。
確かに地味な印象の作品ではありますがちゃんと少年の「能力」の発露シーンではCGも効果的に使われています。
その見せ方はいかにも自然なものなのですが、逆にインパクトがあるとも感じました(ガソリンスタンドのシーンが特に)。
ラストの展開および描写には賛否が分かれるでしょうが、その時点までにアルトンとその父親ロイの絆ががっちりと描かれているのでラストまで緊張感を持ってみることが出来ました。

サム・シェパード、キルスティン・ダンスト(全編ノーメイクで熱演)やアダム・ドライバー、そしてジョエル・エジャートンといった実力派・注目株がこぞって参加しているのもジェフ・ニコルス氏の演出に対する評価の表れとも思えます。
先物買いという意味でも注目しておいて損はない気がいたします。
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