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シン・エヴァンゲリオン劇場版のtrswのネタバレレビュー・内容・結末

4.8

このレビューはネタバレを含みます

僕はエヴァンゲリオンに詳しくないので、作品の設定がどうこうみたいなことはあんまり書けません あくまで見たものから読み取るしかないので...

クエンティン・タランティーノ2019年作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」が、虚構を通して現実の悲劇を精算することを目指したものだとしたら、ゼーレのシナリオに反抗するゲンドウと冬月なりの「人類補完計画」は、まさにタランティーノのそれと意図を同じくするものであり、今作で庵野秀明は彼らと全く逆の試みに成功した

全く逆とはどういうことか?それはシンジやアスカ、レイ、マリ、ゲンドウらを現実の世界へと送り出すことに他ならない
現実の世界...それはエヴァンゲリオンが存在しない世界であり、碇シンジの精神状態が世界の命運に直結する英雄物語ではない世界
庵野秀明的に解釈すれば地に足のついた労働と、人や自然との関わりを通して、自身の存在を確認する行為の連続こそが現実(レイの第3村でのシークエンスは象徴的 満たされないまま寂しく死んでいくところも含め)
第三村で見られる古典的な、偽悪的な目で見れば復古的な生活様式は下手をすればシンジが作品内で何度も突きつけられた「自分でやりたいことを決断していない」と取られる向きもあると思う でも庵野秀明はそうした人々の生活の美意識に共感する方を取ったし、そこに「許し」を見たのだと思う

「ファンに現実で生きることを促す」みたいに見る向きもあると思うけどそれはちょっと違うと思ってて、なぜならファンはどこまで虚構の世界に埋没しても現実に生きているから 庵野秀明の元にあったキャラクターたちをファンたちに返還し、真にファンとキャラクターが共に生きられるようにするということだと思う

じゃあどのようにして彼らは現実に帰っていくのか? そのためにはコミュニケーションをするしかない 最後にはメンタル・セッションのような場面が繰り返され、それぞれのキャラクターが一人の人間であることを意識づける

新劇場版って実は今日「シン」を見るまではいまいちグッときてないところがあって、アニメ版が一番好きだったんですよ
でも「シン」を映画館で見たらやっぱり良くて、当たり前なんだけど映画館で見るために作られたものなんだなぁと思いました

旧劇のモチーフの変奏が随所に見られるけど、シンジを庇ってミサトさんが銃で撃たれるというモチーフの変化には心が動いた
旧劇では動けないシンジを必死に動かし、大きな意見の歯車に載せるため、今回は「あなた自身の願い」を肯定し、大きな意見から彼を守るため
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