このレビューはネタバレを含みます
【1回目】
正直、テレビシリーズと旧劇場版が大好きなだけに、新劇には余り余計な期待をせず、ただただエンタメ作品として終わってくれる事だけを望んでいた。
どうしたって旧劇場版は越えられないのだからと。
だけども、自分のそんな考えを軽く吹っ飛ばすかのように、エヴァシリーズの集大成としてシン・エヴァンゲリオンはこれ以上なく綺麗に完結してくれた。
庵野の性癖全開のエンタメを見せてくれつつ、旧劇で補完しきれなかった細部を改めて別角度から描く。
どちらにも傾き過ぎないバランスにはこれまでには成し得なかった庵野の心の安定を覚える。
シンジが大人になったのと共に、庵野自身も変わったんだと。
元々、死に対する感情と同じぐらい、生に対する想いも大事にする人だとは思っていたけれども
これまでは後ろを向きつつ、どうにか仕方なく前進するような姿勢が目立っていて
自分は彼の作品のそんな不器用さが好きだった。
けれど今作はその生に対する気持ちがより顕著に現れていて、これまでにない柔らかさや暖かさのようなものがひしひしと伝わる。
それを成熟したと表現するべきなのかはわからないけれど、当たり前に生きていくことの強さが作品全体から発せられていたように思う。
寂しいような気もするけれど、直ぐにとはいかないかも知れないけれど、これでようやく一緒に前を向ける人は少なくないんじゃないかな。
お疲れ様、庵野秀明。エヴァンゲリオンという作品を生み出してくれてありがとう。
…自分としてもまだまだ整理しきれていないので、以下は気になった場面を自分のために纏めたい。
ストーリー考察に関しては今後に置いといて、見たままの気持ちをそのままに。
・ヒカリが仕込んだ料理を食卓に運ぶトウジ。
なんてことのないシーンだけど、「台所仕事は男のすることやない」なんて言っていた彼のそんな行動を見ただけで年月の経過を覚える。
「早く何でも出来るようになる必要があった」そんな言葉に深みが出る。
・ミサトさんとの会話でシンジ君が加地Jr.の事を好きだと言った。
恐らく、シリーズ全編を通して、彼が自分の好意を明言するシーンは初。
自己評価が低く、他人の感情の機微を常に気にかける彼はこれまで「嫌いじゃない」「好きになれるかも知れない」等
自分が何かを想う言葉、それを断言するセリフを徹底的に避けてきたように思う。
そんな彼が伝えた好意に、何より彼の成長を感じた。
自分を中心に、自分の中だけで完結していた世界が、外へと広がり、人のため(自分のため)に自分の意思で行動することが出来るようになった。
それだけでもう泣いちゃったよ…。
・これまでの影の薄さの反動かのようにゴリゴリに重要なポジションをかっさらうケンスケ。
恋愛関係だとか、そこの見定めは別にして、式波の裸を見ても動じない関係なんだな、そうなんだな…。
過去作ではネグレクトの父と精神崩壊した母からの関心を惹くために、同時にそんな大人達に頼らずとも生きていけるように強くあり続けた惣流だったけど
今作ではその理由がクローン由来のものに変わっていた。
そのように、シリーズを通してシンジとは違った形で他者からの承認を求め続けていたアスカだけど
ようやくそれが報われたようで良かった。
過去のシンジへの好意を素直に伝えられるような変化がこの14年とシンの中であったんだよ。
【アスカとケンスケについて 追記3/21】
式波とケンスケは第3村に式波が滞在している時点で、それなりの仲になっていたのか
正直なんとも言えなくて、自分の中で捉えかねていたのだけれど
改めて落ち着いて思うと、決定的な何かはあの時点の二人の間にはなかったんだと思う。
あの時点のケンスケは恋人と言うより、あくまで式波相手へも手を差し伸べることが出来る、献身的な人間として写った。
正直そこに式波とシンジの差は余りない。
裸を見られても式波が動じなかったのは、使徒と化している故に、人並みの恥じらいを捨ててしまったから。
むしろ、二人の関係はこれからで
式波がケンスケに対する気持ちを明確に自覚、もしくは認めることが出来たのは
頭を撫でて欲しい相手として描写されたあのシーンからだったんじゃないかと。
また、側に居続ける事が出来ないシンジも
ケンスケになら式波を任せる事が出来ると、彼女を送り出す。
使徒から人間に戻り、他人に対して心を開く事が出来る程に成長した彼女なら
新しい関係を築けるんだと思う。
・最早、全力出した時点で負けるんだろうなと瞬時に匂わせる弐号機さん。かわいい。
・シンクロ率∞(小並感)
・シンジに対して意図せずATフィールドが発動してしまった事に動揺する大きな子供ゲンドウ。
あれだけ遠ざけて、蓋をして、今更と言うか、シンジに対する感情に自覚が無かったのかと笑ってしまった。
旧劇ではゲンドウの一方的な贖罪シーンとして片付けられてしまっていた場面を
紐解いて丁寧に描ききってくれたこと。
24年待った甲斐があった。
・新旧交えたセルフパロディの数々。
ユイは作中トップのイカれ人間だけど、いつだって最後にシンジを送り出してくれる。