垂直落下式サミング

劇場版 遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONSの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.0
2016年は日本のトレーディングカードの代名詞的作品『遊☆戯☆王』の20周年アニバーサリーだった。
現在20代の私はまさに90年代後半のカードゲームブーム直撃世代で、そりゃあもう個人的思い入れを抜きには語れないシリーズなわけです。
ルールの分からないマジックザギャザリング、競技ってよりはキャラゲーだったポケモンカードと、お菓子についているトレカしかなかった時に、競技性とキャラクター性の両方を備えて新たに子供達の前にあらわれたのが遊戯王カードだった。
猛烈に尖ったクリーチャーのデザインと格好いいキャラクター造形の独創性。当時の小学生男児は誰もがこの異様な世界に夢中だった。小学校が終わると同級生と連れ立って町に一軒しかないオモチャを扱ってる店にカードパックを買いに行き、戦略性も何もない寄せ集めの紙束を使って夕方までテーブルを囲んで遊んでいたあの頃に戻りたい。
遊戯王を通じて何人友達が増えただろう。思えば漢字を覚えたのはカードのテキストを読むためだし、大嫌いな算数の時間に真面目に席に座っていたのはダメージ計算に暗算が必要だったからだ。俺なんか本当にバカだったからカードをやってなかったら字なんか書けなかったと思う。そんなだから、友情の尊さも、学びの大切さも、みんな遊戯王に教わった気がする。ありがとう俺のデッキ。
初代遊戯王は、主人公とその相棒のイノセンスの消失と自立が物語の大きなテーマとなっていて、主人公がイマジナリーフレンドを倒し自らの意思で決別する最終回でストーリーは綺麗に完結し、仲間たちは日常に戻りそれぞれの道を歩み始めたはずだった。
本作はその後を描く話だというのだから、ファンとしては複雑なものが無いわけではない。もう、ど根性ガエルはTシャツを脱いでしまったのだ。カビ臭いピョン吉を押し入れから引っ張り出してくるのかと心配していたが、さすがは遊戯王ブランド、原作者カズキングがストーリーに入っているだけあってアテムの扱いはヴィンテージである。自分の世界を安売りする必要のない立場にいるクリエイターは強いな。
常に物語の中心にいた闇遊戯が不在のため、今回は作中屈指の人気キャラクターだった海馬にフォーカスしている。確かにガンダムでも一番人気はアムロじゃなくてシャアだ。このタイミングで逆襲の海馬、なるほど必然かもしれない。
最高のライバルを失ったことで、完全に頭のおかしい人となった海馬社長。なんとしても思い人をよみがえらせようとするオカルトメンヘラと化している。自社の私物化はもはや独裁者の域。彼が運営する海馬コーポレーションは、主軸とするアミューズメント経営やレジャー開発はもちろん、コンピュータシステムにホログラフィック映像出力装置などのインダストリアルな分野、さらには軍事派遣から遺跡発掘に宇宙開発まで、手広く事業を展開しており、ロックフェラーも裸足で逃げ出すようなモンスターカンパニーへと成長を遂げている。更にはドミノ町をカードゲーマータウンとして統治。すべてのデュエルデスクを管理し、データベース登録を済ませたデュエリストしか住むことを許されないのだ。どんな企業・政治戦略を実施すれば各分野でここまでの成果を達成できるのかはわからないが、時にはエグい手段すら辞さずそれをやってのけたのであろう。海馬瀬人からはそんな覇者の資質が止まることなく溢れだしている。
彼は原作終了後も我々にその異常性の片鱗を垣間見せており、「正義の味方カイバーマン」として続編の『遊戯王GX』に登場し後輩を軽くボコったかと思えば、宇宙のパワーをデュエルに取り入れようと一枚のカードをカプセルに入れて宇宙に打ち上げたりと、我々の凡百な思考回路では理解しかねる奇行を重ねていた。この映画ではその狂いっぷりに拍車がかかっており、遂にここまで来たか…という感慨を抱かずにはいられない。
「ワハハハハハハ!!」と高笑いを披露し、ラスボス相手に初戦から失われたはずの神のカードを繰り出し圧倒する姿に爆笑。やはり海馬の活躍する場面はフィールが高まる。何よりデカブツによるパワープレイの応酬が見物で「モンスターではない!神だ!」という俺ルールを発動する場面の幸福感たるや!
まぁ、良くも悪くも大味で、遊戯王をまったく知らない人が観たら「ひでえもんだ」の一言で済んでしまうようなアニメ映画だと思うし、そこは否定しない。週替わり特典カードのために何回も観なければならないプロモ商法も売り方として汚いと思う。(デッキに入れられる同名カードの枚数は三枚まで。よって決闘者は最低でも週3回は観ないといけない。)
「熱き決闘者たち」とか「神の怒り」みたいな処刑用BGMも変にゴージャス感を付け足さなくていいから原曲をそのまま流して欲しかったな。
ラストは杏子がアメリカに旅立つんだけど、最近の漫画では「キャラクターが外へ出ていく」又は「役目を終えたものが新たな場所に旅立つ」っていうラストを見なくなった気がする。日本人が世界に出ていく時代は終わってしまったのか。流川はアメリカに行ったけど、ナルトはレペゼン木ノ葉隠れだしな。
映画ファンとしてはもちろん、遊戯王ファンとしても言いたいことは沢山ある。でも、何だかんだ言っても俺は遊戯王大好きだし、高橋先生とKONAMIに感謝していない決闘者はいないはずだ。