けーはち

MILES AHEAD マイルス・デイヴィス 空白の5年間のけーはちのレビュー・感想・評価

3.0
ジャズの帝王マイルス・デイヴィスが75年頃から活動を休止した「空白の5年間」に迫るドキュメンタリー……と見せかけて、カーチェイスありガンファイトありのギャングスタ映画。監督&制作&脚本&主演ドン・チードル、壮絶なワンマン体制になりきりモノマネで、チョー気持ち良いで賞受賞。

★ドン・チードル監督デビュー

ドン・チードルと言えば、『ホテル・ルワンダ』の主演や、『アイアンマン』『アベンジャーズ』の渋い脇役ローディ(新作『シビル・ウォー』では、あんなことになっちゃったが)だが、今回は自作自演チョー気持ち良いワンマン体制。

猛特訓を積んだサックス演奏の演技、しわがれ声、酒とクスリと喧嘩でボロボロな足腰、それでいて傍若無人な振る舞い、最高にハマっている。

★ギャングスタ、マイルス・デイヴィス

長期の休みを取って「カネを振り込め」と言っておきレコード会社から人が来ればぶん殴る、気に入らなければレコード会社まで行って拳銃をぶっ放す。酒とコカインをたらふくやってハイになっている内に録音したマスターテープが悪徳音楽プロデューサーに盗まれ、またぞろ拳銃片手に取り返しに行って、撃ち合い&カーチェイスでボロボロに。ローリング・ストーン誌のライター、ユアン・マクレガーもなぜか巻き込まれ、いつの間にかバディ・アクションものになっているのが、苦笑を誘う。

亭主関白でヨメのフランシスに仕事までやめさせて尽くさせたのに、女癖が悪かったりクスリでラリったりどうしようもないクズで、ひどく夫婦喧嘩して離婚した後も未練べったりなのも、破滅型人間の悲喜劇の味がある。

90年代のHip-Hopの『ストレイト・アウタ・コンプトン』だって完全にギャングスタ。もっと前の時代のミュージシャンの生き様なんて、相当ヤクザでクレイジーで破滅的な側面があり、そこをシャープに描き出している。

それでいて、音楽的才能は余人の追随を許さぬ天才、そして絶えず前に進む、だからこその「マイルス・アヘッド」。度々挟まれるレコーディングのシーンや、ラストの現代のジャズ界隈を担う豪華メンバーによる現代的な解釈での、「この中に一人モノマネ師が紛れ込んでいる」状態で再現セッションシーンは超カッコイイ(エスペランサちゃんは可愛い)。

とはいえイマイチ5年のブランクを取り戻すキッカケのドラマ部分が弱すぎるので、何だか物足りない感は否めない。プラマイでスコアはこんなところかと。