アリスinムビチケ図鑑

ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐのアリスinムビチケ図鑑のレビュー・感想・評価

4.5
『トム、君の作品だ。
私は最良の形で読者に届けたいだけ、
傑作を読者に渡すことが私の務めだ。』


1920年代のアメリカ文学、ヘミングウェイの"老人と海"や、"F・スコット・ジェラルド"の代表作"グレート・ギャツビー"等の名作を数多く手掛け世に送り出した、優秀な編集者"マックス・パーキンズ"(コリン・ファース)と、
そのマックスによって発掘された光る原石の天才作家"トマス・ウルフ"(ジュード・ロウ)との出会いから出版に至るまでの努力と文学への情熱や拘りを丁寧に描いた実話ベースの物語です。

抱え切れない程大量の原稿を持ち込む一人の男が現れます。

彼はどこの出版社へ持ち込んでも相手にして貰え無かったと言う特異な経歴の持ち主です。

マックスは彼の書く文章に他者とは違う、光るモノを見つけ出版の契約を結びます。

初めて貰う契約の手付金に涙して喜ぶトマス。

喜ぶのは束の間、翌日からマックスとトマスの出版に向けての編集作業が始まるのです。


本は人々の目に留まり手に取って貰う所から始まります。
どんなに秀作でも誰の目にも留まらなければ内容の良さは伝わりません。

マックスはトマスに問います。
「ウエスト・エッグのトリマルキオ」
「グレート・ギャツビー」
どちらを読みたいと思う?

「ギャツビー!」
トマスは迷わず答えます。

これがスコットが変えた理由だよ、とマックスは教えます。

形容詞を加えた長いタイトルよりも、
端的に言い当て、よりシンプルに、響を大切にする方が魅力的に映ると言う意味だと私は解釈しました。

泉の様に溢れ出るイメージや言葉が抑えきれないトマスは、沢山の音や色などの形容詞を並べて一つの事を美しく表現します。
マックスは詩的表現よりも、
シンプルに一言でズバリ書く方がより鮮烈な印象を与えるとアドバイスを重ね文章を整えて行きます。

長い長い原稿の編集、
美しい骨格を際立たせるには、余分な肉を削ぎ落とし、シェイプされた筋肉である文章をシンプルに見せることが読者の心に鮮烈に響き心に残るのだとマックスに教えられた気がしました。

作家と編集者、二人の編集シーンが事細かに描かれていて、
その熱量が鮮明に伝わって来る辺りが秀悦です。

その他にも、仕事に情熱を注ぐ男達に対して、
二人の妻の対比がありありと描かれている所も特徴的でした。

家庭を基準に考える妻達ではありますが、
夫の仕事よりも夫婦の関係を第一に考えるトマスの妻(ニコール・キッドマン)と、
家庭も大切にして欲しいと願いつつも、夫の仕事に理解を示す妻(ローラ・リニー)。

其々の関係性の描かれ方もまた興味深く映りました。

編集の束の間、
破天荒なトマスが、生真面目なマックスをバーへ誘いジャズを聴かせ共に踊ったり、
昔住んでいたアパートへ行き、自分のルーツをマックスに見せ、屋上から眺めた景色の美しさが印象深いシーンでした。

5000枚にも登る程の原稿を2年もの歳月を掛けて編集すると言う大仕事をやってのけた二人。
友の様に、時には息子の様に育て、独り立ちをさせてくれたマックスへ
感謝の言葉を本に追加して欲しいとトマスは願いでます。
パーキンズに捧ぐと…。

2冊の本のベストセラー入りを果たしたトマスと、
まだ名も無き頃に才能を見極め、全力で支え育て上げたマックスの文学への情熱と、
二人の友情を描いた素晴らしい物語に浸る幸せな時間でした😊