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永い言い訳のspoonのネタバレレビュー・内容・結末

永い言い訳(2016年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

夫や家族の対比なんかじゃない。そんな簡単なメッセージではない。
役者一人一人が演じる感情が、これでもかというくらい溢れて迫ってくる。
熱い涙も、笑う瞬間も、色んな感情を与えてくれる、とても素晴らしい作品でした。

是枝監督の「誰も知らない」とどこか似ているな。子供たちの無邪気で無垢な可愛さ、小さな感情の揺れも見逃さない丁寧で一つ一つを大切にしている事が伝わってくる撮り方。
と思って調べたら、監督の西川美和さんは、テレビマンユニオンの面接担当だった是枝裕和監督に意気込みを見出され、映画『ワンダフルライフ』にフリーのスタッフとして参加された経緯があったのですね。そしてエンドロールで流れて気がつきましたが、企画協力に是枝さんの名前が。納得。

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妻がバス事故で亡くなった時に不倫相手と真っ最中だった最低な幸夫(本木雅弘)。でも、妻同時の死をキッカケに大宮家と関わるようになり、変わっていく心情。メンツやテレビ映り重視の幸夫だったのに、岸本(池松壮亮)の言葉に違和感を感じるようになる。以前の自分だったらすんなり受け入れただろうに。

家族に小さな歪み、交差する心のすれ違いが生じ始めた時。歪みが、ほころびがまだ小さいときに、深く心を閉ざしてしまう前に、立場は違えどそっと気づいてくれて寄り添ってくれる、潤滑油のような幸夫のような存在が、今の世の中で生活している一人一人に居てくれたら。と思った。
家族でもない赤の他人だけど、大宮家にとって、子供たちにとって、幸夫はかけがえのない大切な存在。

冷めきっていた幸夫の心の秒針の針が、大宮家と触れ合う事で暖められて、だんだんと動き出していく。

描かれてはいないが、最低な人間だった幸夫も、そうなってしまった背景があったのかもしれない。否定から入るのではなく、汲み取る暖かさの大切さも感じた。

またゆっくりと見たいなと思える素晴らしい傑作でした。
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