津村啓の名前で作家として活動する衣笠幸夫は不倫の最中に突然妻の訃報を受ける。妻 夏子は親友の大宮ゆきと共に旅行に出かけており、彼女らが乗った夜行バスが事故を起こしたのだった。しかし幸夫に悲しみは湧いてこない。悲劇の主人公を演じ、エゴサーチばかりしていた。そんな中、遺族説明会でゆきの夫でトラック運転手の大宮陽一と出会った幸夫。陽一には、しっかり者の息子 真平とわんぱくな娘 灯の2人の子供がいた。幸夫は思いつきで陽一が仕事に行ってる間の子守りを買ってでる。
突然家族を失うってのはとんでもなく辛いことですが、主人公に悲しみの感情は湧いてきません。それよりも、髪型を気にしたり、エゴサをするくらい自意識が高く、情に冷たい人間です。そんな男がひょんなことから、同じく母を失った子供たちの世話をするようになり、変わっていきます。
池松壮亮のセリフで「子供の世話は男にとって免罪符」というものがありました。この主人公にとっては正にその通りだったかもしれません。しかし、そんな贖罪が生き甲斐に変わっていく様子はとても微笑ましいものでした。
妻の死を断ち切ろうとする幸夫と妻の死を忘れられない陽一。この2人の対比もわかりやすくて良かったです。それから、陽一の息子 真平の存在も大きかった。彼はどちらかと言うと幸夫の性格に近い感じで、母の葬儀で泣くことができませんでした。しかし、それが罪という訳ではありません。悲しみの感じ方・表し方なんて人それぞれ。悲しみを感じるかどうかも人それぞれ。
大宮家と関わることによって、誰かもために生きることに輝きを見出してきた幸夫。そんな生き甲斐を取られそうになったと感じたり、妻の遺したメッセージに自尊心が傷つけられたりして荒れてしまったりもしますが、そういったことも通して、愛せる人がいることがどれだけ尊いことなのか気づいていく。そこからやっと妻を愛しはじめる。主人公の成長譚として素晴らしいものでした。
もっくんの演技もめっちゃ良かったです。かなり感情の動きが大きいので、演技がより大切になってくると思います。それを見事に表現されていました。何より声がいいんですよね。
西川美和監督の作品は「すばらしき世界」に続いて2作目の鑑賞となります。展開の大きさのわりに感情の動きが大きい作風がグッと刺さってきます。今作も、ゆっくり静かではありますが、間違いなく心揺さぶられる作品でした。