茜

永い言い訳の茜のレビュー・感想・評価

永い言い訳(2016年製作の映画)
4.8
かつて、これほどまでに落ち着き、丁寧に作られた映画を私は観たことがない。
質感のいいフィルムで撮られた冒頭の映像が目に映ったと同時に、この映画を最後まで安心して観ることができると確信した。
一切の妥協、粗のない心地いいテンポで感情を揺さぶられていき、時にあまりにも自然な流れで衝撃を食らう。
そしてそこに完璧に寄り添う挿入曲。
なんて客に優しい映画なのだろう。

映画を観ていて、度々私は自身の大事な存在を想い心動かされた。


息を吹いて出来上がったシャボン玉や、長い時間をかけて作られ打ち上がった花火は、一瞬で美しさを消してしまう。
それを作る時間よりも、眺める時間よりも、消えてしまってからの時間の方が遥かに長い。

人の命も同様に、生まれたら亡くなる。
いつなくなってしまうか常にわからないまま毎日を過ごしている。

自分の存在は誰かにとってどれほどのものなのか、誰かは自分にとってどんな人なのか、それに気付くことができたら、私の残りの人生にはどれだけ幸せな時間が待っていることだろう。

この映画を観たので、昨日よりもちょっと人生が良くなる自分になれた気がしてならない。

それほど製作者からの気合いを感じる素晴らしい映画だった。


そしてもうひとつ、西川美和の子役の演出は素晴らしい。
特に兄妹喧嘩のシーン、あれほどリアルな子供達をスクリーンで観られたことがあっただろうか。
長男を演じたあの少年の成長をこれからも見続けられるのかと想像すると、楽しみで仕方がない。
茜