2023年。ワハハ！ ピンクに彩られた、オモチャのバービーたちが主役のバービーランド。太めもいれば車椅子も黒人もアジアン……はいたかな。とにかく多様なバービーたちが男友達のケン(たち)と仲良く暮らすここで、ある日突然ブロンドでナイスプロポーションの「定番バービー」の様子がおかしくなる。死……平たい足……セルライト……。バービー(定番)とケン(定番でビーチタイプ)はこの異変の原因たる人間界へと一路、旅立つのだった。
全方位に冷や水を浴びせる映画である。バービーランドはもちろん作り物なのであるがいかにも作り物めいてキッチュであるし、鬱屈していたケン(ビーチタイプ)は旧弊的な男らしさにカブれる。一方で無垢なバービーもケンも人間界とのカルチャーギャップである意味ではネタにされている。で、「これはフェミニズム映画だな！」と頷いていた人はラストに「ハッ！？」と驚くことになろう。なんせ閉じたモノをわざわざ改めて開けるってんだから。驚きですよ。たぶん。
他方の人間界は男衆はバービーを見るや卑猥な言葉を吐き、バービーの親会社は役員が全員男だし、バービーを罵倒するZ世代の少女も「あんたみたいな定番バービーがフェミニズムを半世紀送らせたのよ！」とあまりの言いようでカリカチュアされているようにも見える。「変になったバービーたちに女の現実を説教すると『元に戻る』」なんてのも強烈であるが戯画的とも感じた。なお男側で斬られるのは体育会系だけでなくオタク成分も同様である。
「現実世界あるある」と「戯画化」がほどよくミックスされていてゴンゴンに打ち出されてくる。が、この冷や水、どうにもぬくい。あったかくて割とみんなに優しいのである。バービーにもケンにも持ち主にもオモチャ会社の皆さんにもそれぞれ思いがあり、すれ違いやガマンしてきたものを吐き出して、大殺戮や崩壊には至らず、平和におさまるのである。
これってどうなのよ？ と思った。殴ったり蹴ったり燃やしたり爆発したりとか……そういうのはやってくれないの？ この腐った世界に？ とか思った。しかし、そういう発想こそが「旧弊的な男社会」の発想なのではないかと思い直した。
これはちょいとネタバレになるが物語終盤、バービーたちを巡ってケンたちが争いをはじめる。武器こそないが男同士の全面戦争である。しかしながらこの戦争、途中から変貌する。このシーンだけは真に「冷や水」だったかもしれない。お前たち男はエモい感じや国とか使命とか愛とか背負って戦うけど、結局は「じゃれ合い」なんだろ？ と。
『戦争は女の顔をしていない』という名著がある。戦争、争い、敵とのバトルとはつまり概して男のモノである。『バービー』はそこに楔を打ち込む。戦争なんて男の子の遊びよ、馬鹿馬鹿しい。腹を割って話し合いましょうよ、と。本作にわかりやすいカタストロフィ、スッキリ感がないのはそのためだ。敵を殴って、完！ はとどのつまり男の子の映画だ、という刃を突きつけているのではないか。
とまぁつらつら書いたけども、あまり深く考えずに観てもらった方がよいのではないか。何故ならば今でこそ作られた「現代！」な映画であることは間違いないからである。観れば「うぅん、現代！」とひしひしと感じるはずである。とは言えどうにもまとまりがないというかウスラボンヤリした作品であるように感じた。本来はもっと尖っていたのがこうなったのやもしれぬ。オモチャ会社の重役室の外に「ハリウッド」の文字があったのも、意趣返しかもしれない。
それはそうとね、歌を使われたマッチボックス20はとんだ風評被害だと思うんですよ。ちなみにビーチのシーンで歌われた「PUSH」が収録されたデビューアルバムの一曲目は「リアル・ワールド」で、歌詞はまさにケンのことと言える。聴いたげてね！！
