マインド亀

バービーのマインド亀のレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
5.0
●『バービー』観ました!グレタ・ガーウィグ✕ノア・バームバック✕マーゴット・ロビー✕バービーという座組が面白そうとしか言いようがなかったため、男性一人でも観に行きました。
グレタ・ガーウィグの映画は、毎作毎作、男女関係なく琴線に触れる号泣ポイントがあって、自分の中の最高のシーンを更新していくので、今回の化学反応がどうなるのか楽しみでありました。
男性である私にとって居心地が悪くなる映画ではないかと思っていたのですが、そんなものは全くの杞憂!
結論から言って、今作は号泣ポイントに加え、爆笑ポイントの二段構えで、感情が振り回されまくって最高でした。
まさかこんなにもケンで泣かされるとは思っていませんでした。
本作はシスターフッドの話でも女性達の社会進出の話でもありますが、同時に男女関係なく、「自分」が誰のものでもなく自分のためのものという話でもありました。ケンとバービーがお互いを許し合って、誰かが決めたキャラ設定という呪縛から開放されたのは、まさしく現実の我々が社会的に演じなければならない「枠組み」からの開放を意味しており、まさしく自分の為の映画だと思いました。

●バービーランドのセットや小道具など、ご覧になられている方はめちゃくちゃ褒めておられますが、私が個人的にツボだったのは、マテル社がマーゴット・ロビーのバービーを送り返す箱に入れる際に、手足を留めるのが、箱の後ろから通したビニールタイだったところです!
まさにあのビニタイが出荷時にバービーを固定する道具でもあり、女性(や男性)を見世物のように縛り付け、役割を固定し、自由を奪う社会の固定観念のメタファーだと思いました。

●また、例のベンチでのシーンですがおそらく誰しもがグッと来るシーンだったと思います。人がそのまま歳を取ることの自然さを美しいと思うことこそがこの社会に必要なのだと思うのです。そしてそれを「知ってるわ」と返すことの出来る老婆の力強い言葉に多くの人が勇気づけられたことでしょう。私も中年を超えてアンチエイジングだスキンケアだと必死になってますが、それはそれとして歳を取ることそのものが決して怖いことじゃないと思えるようになりました。このシーンがあるからこそラストのあのバービーの選択に結実していくのですね。そして女性がおとなになってやることにつながるので、大事なシーンです。
とは言え、こちら側の世界もまだまだディストピア。2023年にもなって、女性が着たい服装を着てるだけで、「そんな服装じゃセクハラされても文句を言えない」とかまだ誹謗中傷を受ける始末。この世界に来てセクハラを受けるバービーを見て、そんな現実の問題が結びつきました。

●しかしながら、バービーという子供の夢を取り扱う映画にも関わらず、公開前の情報で、「マテル社の役員は男しかいない」とか「子供にバービーを断罪される」とか「バービーの飾りでしかないケンの反乱がある」とか、かなりマテル社の自己批判的な内容を聞いていたことから、どうやってマテル社との折り合いをつけたのかハラハラしておりました。
Netflixのドキュメンタリーシリーズ『ボクらを作ったオモチャたち』のバービー回で、バービーの成立ちを詳しく説明していたので観てみたところ、生みの親のルース・ハンドラーは割とむちゃくちゃな人らしく、利益水増しを指示して逮捕されたり、バービーの共同開発者のジャック・ライアンを訴訟で追い詰め、彼の死後は自分こそが生みの親と吹聴して回るなどなかなかのダーティなイメージの生みの親でした。
ひょっとすると、本作は明らかにジャック・ライアンの存在を完全に無視し、ルース・ハンドラーのイメージ回復に一役買っているところが、マテル社との折り合いだったのかもしれません。
また同時に、バービーは数々の苦難を乗り越えつつも2017年頃から売上が低迷しております。『ボクらを作ったオモチャたち』の『永遠のバービー』著者のM.G.ロードはインタビューでで、「マテルは何かすべきです。過去をさらけ出して変化を起こさないと。人形を巡る議論を再燃させるんです」と語っており、マテル社側にもこういった思惑が共通認識としてあったのかもしれません。
いずれにしても本作はその思惑以上に成功し、これからの時代の新しいバービーを受け入れる土壌を開拓できたのかもしれないと思いました。
そしてこれだけの議論を巻き起こしたグレタ・ガーウィグとマーゴット・ロビーの敏腕ぶりが冴え渡っているなあと、ただただ感心するばかりでした。
※『ボクらを作ったオモチャたち』は本作のサブテキストとして観ていたほうが楽しめます!オススメです!
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