役人者

バービーの役人者のレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
3.7
ハリウッド映画制作にあたって、今や不可避なタスクと化した、ダイバーシティというテーマの取り扱い。そんな現状を冷めた横目で流し見しつつ、やたら楽しそうにピンク色の毒霧を吐きかけていく映画。スタイル抜群なバービーたちが、パステルカラーで満たされたおままごとの世界で、声高らかに多様性の素晴らしさを謳いあげるバービーランド。一方で、ダイバーシティというお題目すら飯の種にして、男たちが既得権益の上にあぐらをかき続ける現実世界。今のハリウッド映画と現実社会の関係を表してるようでもある。カラフルな多様性の看板に潜むツッコミ所を、炙り出して茶化し尽くしてる。もっともらしいお題目で外堀を固めながら、結局女も男も、互いの性的ニーズに対して相対的にそれぞれの理想像を作り上げ固定化してきたという構図が、結構グロいんだけど笑っちゃう。
古典的モチーフを徹底的にリスペクトして映像化すると同時に、そのメンタリティを根こそぎひっくり返すような皮肉の道具としても利用するグレタカーウィグは、やっぱり面白いと思う。女性の女性による女性のための映画であることは間違いないんだけど、折々で男性視点の主張も混じえながら、双方がそれなりに納得する落とし所に持っていくバランス感覚も見事。ただ、扱うモチーフがモチーフなだけに、子ども達への配慮も必要だったんだろうけど、無理に分かりやすくしようとして、薄っぺらになってると感じてしまう部分もあった。そして、バービーランド内で唯一道標が示されなかったアランは、いったいどこへ行った。
マーゴットロビーとライアンゴズリングは、役の割に年取りすぎた見た目も含めて、作品の意図をよく汲み取った好演。リアルバービーの面目躍如たる派手なルックスに目が奪われがちだけど、マーゴットロビーは細やかで的確な感情表現が本当に上手。この映画のバービーやケンと同じように、散々記号化されながらもそこから脱却し続けてきた固有のキャリアが役の向こうに透けて見えるから、何度も繰り返されてきた普遍的メッセージの説得力が、一段階増した気がする。
役人者

役人者