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アイリッシュマンのyksijokiのレビュー・感想・評価

アイリッシュマン(2019年製作の映画)
3.8
重厚感がすごい。全体として暗かったり重かったりというわけではないのにこの重厚感がでるのは出ている役者の円熟味によるものじゃないか。

上映時間が3時間半で登場人物の数も多いから劇場では集中して観れるがテレビ越しだとちょっと…というのは確かにあるかも。個人的には自動翻訳の字幕が興醒めだった。タイトルバック的な意味合いのあのシーンと各人物の初回登場シーンで下に出る字幕が日本語だとダサすぎたしフォントもなんか変でがっかりだった。

アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ、ジョー・ペシの三人だけでこれだけ濃密な時間が作れるんだというぐらい会話の一つ一つの表情の力が強く、表現の裏にある真意とか彼らの役者としての詩吟が滲み出ててこういったあたりの素晴らしさがあった。逆にこの3人以外の特に若手の端役とここの重鎮たちとの会話には圧倒的な緊張感がある。失礼な口の聞き方をした際のカット全体のやってしまってるオーラが凄かった。別に殺されるわけではないし、何なら立場も対等だったりするんだけれどそうではない何かが相手を捻り潰している感覚を覚えた。

序盤の美容室でのワンカットの長回しとラストの長回しはどちらも味があって、特にラストカットはこちらに提示してくる「人生」「何かを守るとは」「何かに守られるとは」ということのメッセージングの強烈さが素晴らしかった。

実話ベースだからこそ抗争に派手さはないし、撃ち合ったり、手下の首をプレゼントしたりとかそういうのはない。無いからこその「何かを守るために何かを消す」描写が際立っていて、まさにペンキ塗りという表現に尽きる形になっていてここも秀逸。

あとは娘であるペギーとの関係性とペギーの反応や表情が絶妙にアクセントになっている。家族を守ってきたつもりの行動や言動が間違っているということが最後まで本人には分からないし全然気づけない。麻痺、末期症状といえる状態になるまでになってしまったデニーロの顔や言動が最後にズンと表現されるのもスコテッシらしさというかそこの筋の通し方が流石だなと。
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