CHEBUNBUN

冬の街のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

冬の街(2002年製作の映画)
4.5
【潔癖症のインテリだってAVを観たい!】
ヌリ・ビルゲ・ジェイラン作品の制作会社Nbc FilmのVIMEOアカウントで彼のレア作『カサバー町』、『5月の雲』、『Climates/うつろいの季節』、『冬の街』がレンタル配信されていた。『死ぬまでに観たい映画1001本』掲載のレア作品『冬の街』が観られるとのことで早速挑戦してみました。

テオ・アンゲロプロス作品のように、冷たく寂れた世界を長いパン捌きで美しく捉えていく。男が何かを待ち伏せしようと車に寄りかかるのだが、警報機が鳴ってしまい、居心地悪そうに、持ち主に謝罪しながら去っていく。そのシークエンスの重厚なカメラワーク一つとっても本作は美しい。ヌリ・ビルゲ・ジェイランの美しい構図の中に、ヒリヒリした会話とユーモアを入れていく作風は本作で完全に監督はモノにした。

無職のユースフは仕事を探す過程で、親戚にして裕福なカメラマンであるマームートの家に訪ねていく。マームートは潔癖症に近く、家には塵一つ落ちておらず、居心地の悪さを感じるほどに整理整頓されている。思わぬ居候に困惑するマームート。取り敢えず、家に入れるが、靴の匂いが気になりスプレーをする始末。造船場の仕事に着くまでお願いと、ユースフは言うのだが彼はあまり職を探しているように見えず、マームートのフラストレーションが高まっていくばかりだ。そして、彼には元妻がカナダへ移住するという状況に立たされており、ユースフどころではないのだ。

本作はトルコ語で「遠く離れている」という意味の《UZAK》がタイトルになっているだけに、家族であっても心が遠くへ離れてしまった男の孤独を美しくも寂れた大地をバックに描いた傑作だ。

『死ぬまでに観たい映画1001本』での推しポイントである、AVシーンがスパイスになっている。ユースフの前では、タルコフスキーの『ストーカー』を真面目に観ているマームートが、彼がいなくなるや否やAVを装填して観賞し始める。そして彼が戻ってくると、すぐさまチャンネルを切り替える、まるで中学生が親の目を掻い潜って官能漫画を読むような行為をドライな映像の中でやってのけるのです。しかも、あまりにカッコ悪いバレ方をしているところに面白さを感じます。と同時に、写真家として成功しているマームートが無職のユースフを見下している、あるいは虚栄を張っていることを表している。人間とは虚栄を張るもので、自分よりも格下の相手にはより自分を大きく見せるものだが、それはあまりに滑稽で、バレバレな行為だと嘲笑してみせているのです。

そして結局、歩み寄ってきた親戚を拒絶し、離れてしまった妻は遠くから眺めることでしか別れを告げることができない。

寂しい人の痛々しい生活というものを2時間の中で凝縮させていました。
CHEBUNBUN

CHEBUNBUN