【捌き】
稀有な映画体験でした。もどかしい時間も含まれますが、インド事情をより知れば興味に変わるだろう…ことも想像できます。
人前で歌うことが罪となる物語…インド映画なのに(笑)。
アンチエンタメではないですが、日本公開されるインド映画はエンタメ要素強いものになりがちなので、それらと逆を向いた作風に見えて、そこが面白い。インド本国でも、映画館マルチプレックス化…観客細分化の後押しから成立した企画でもあるようですね。
“歌って踊らない” マラーティー映画。鮮度ある視線で貫かれる、インディーズ系の最新“判例”でありましょう。
被差別カーストの歌手が、やはり被差別カーストと思われる掃除人の死と結びつけられ、こじつけとしか思えぬ罪状で被告席に立たされる。しかし裁判では、この不条理がなかなか覆せない。
映画はそんな案件を淡々と追い、不条理はインドそのものが持つ病理か…とも滲んできますが、まさしく“浮き彫り”という表現がピッタリの展開。なんか、どうしようもないですね。
邦題は『裁き』ですが、やってることは“捌き”。イヤな国だなあ…と思いつつ、被告“二度目の受難”理由をみれば、日本も他人事ではなくなってきている、と淡々と恐ろしくなります。
そんな一方、公の“捌き”の場から、関係者の日常・素顔に淡々と広がってゆく様が淡々と豊饒ですね。
人権派の弁護士はお坊ちゃまだが、金持ち親との関係が…。
女性検察官は家族思いのよい母親、しかし休日に家族で楽しむのは…。
“やり手”と言われる裁判官、理性的な仕事ぶりに反した素顔は…
等々を、日常当り前なことなのに、映画的な驚きに変えてしまう手腕が見事だと思った。
わかる範囲で、うわ、インドだ、という驚きも多々。例えば、弁護士を助ける青年がやはり被差別カーストとわかれば、脚本細部がかなり練られていることもわかりますね。
単純な映像ショックも。スラム街でカラスがたむろするショットが、ホラー映画のようでかなり怖かったが、本物を普通に撮っただけなのでしょうね。
ボリウッド娯楽作には映らないだろう、くすんだインド、がそこかしこに顕れるのはとても価値的に思えました。もう一度みればより発見がありそう。噛み応え盛り盛りの映画でした。
<2017.8.7記>