[幸せな人間に不幸せな人間など見えていない] 100点
大傑作。想像以上に「仮面/ペルソナ」なアレックス・ロス・ペリーの長編四作目。鬱病だった父親を亡くし、恋人ジェームズにも棄てられたキャサリンは親友のヴァジーニアに連れられて彼女の別荘に赴くが、一年前にジェームズを含めた三人で訪れた記憶が蘇って逆に追い詰められていく。一年前の記憶と現在が交互に入れ替わるように構成されているのだが、ここでヴァージニアという女が妙にイカれていて、我々もキャサリンも彼女に頼るしか道が残されていないのに、ヴァージニアはキャサリンを慰めたかと思うと貶し始めたり、ものすごい怖い目つきでキャサリンを睨みつけたりするのだ。そこにヴァージニアの恋人で無理解な男リッチが時たまやって来て、キャサリンは余計に心乱される。
この緊張感溢れるサイコスリラーのような物語はモスとウォーターストンの熱演によって具現化したわけだけども、例えばモスよりウォーターストンの方が背が高いのもキーポイントかもしれない。常にウォーターストンはモスを見下ろす位置にあるのだが、これがナチュラルな状態でも発生しているということなのだろうか。また、ウォーターストンの目が茶色いので、真っ青なモスと比べると黒目が大きくて、二人を交互に観るとウォーターストンが何を考えているか分かりにくい。なんてことを色々勘ぐりたくなるとてもいい配役である。
どんどん発狂していくキャサリンは下着みたいな格好で湖畔を彷徨き、パーティでの笑いを自分への嘲笑と誤認し、遂には破綻して幼児退行してしまう。それもこれも彼女が偉大な芸術家だった父親とイケメンな彼氏にベッタリ依存していたせいで、その支えが一瞬にしてなくなった時"自分"そのものがなくなってしまったからなんだろう。
最終的にヴァージニアがキャサリンを助けなかった理由が暗示される。結局の所、幸せな人間に不幸せな人間なんか見えていないのだ。当てつけのように辛く当たってしまったことを今更ながら後悔しているヴァージニアから唐突にクスクス笑い続けるキャサリンにジャンプし、薄笑いを浮かべながら湖を見つめるラストカットは最強。
色調が70年代のフィルム映画に似ていて非常に好み。「クレールの膝」とか「私たちは一緒に年を取ることはない」なんかを思い出して勝手にエモくなっていた。グロすぎるサイコスリラーに対する鮮やかな色彩というギャップに心を掴まれてしまったようだ。