このレビューはネタバレを含みます
昔見た映画ですが、見たくなったからまた見ました。冒頭のワンショット、炎上する車の鮮烈さに心が持ってかれるんですよ。それだけでこの映画は絶対にいいものだって思ってしまう。正直言えば予告でバズコックスの音楽が流れた時点で絶対いい映画だ、と思っていたのですが。
基本的には、主人公であるジェイミーがアイデンティティーを確立するまでを描いた作品で、登場人物それぞれがそれぞれに信じる信念があり、それを理解しようとしたり、突き放してみたり…。自分より成熟しているはずの人たちがぶつかり合ってるのだから渦中のジェイミーはたまったもんじゃない。
好きなシーンはとてもたくさんあるのですが、ラストでジェイミーとジュリーがモーテルでセックスしようと試みるシーンで、ジェイミーが「君が欲しいんだ」と言ったことに対して「あんたの考える"私"でしょそれは私じゃない」というところ。ジュリーの関係が変わってしまうこと、失われてしまうことの恐れが端的に表れていて、好きです。
なにより好きなのは終盤の親子の会話のシーンで、母親のドロシーに対してジェイミーが「僕は母さんがいれば大丈夫だって」というあの場面のふたりの表情や振る舞いが本当にいいんですよ。本当にそこであったことみたいに思えて。
その後、ふたりでの会話シーンが続いて。ドロシーが「一生誰かと愛し合えないことが怖かった」って告白するシーンも胸が詰まる。私は自分の母親とこんな心根の深いところを話したことがない。でも、ジェイミーにとってもそれが母親と本当の気持ちを話した最後の日になったというのも、まああり得ることかな…。何か大きなことをきっかけにいろんなことが瞬間的に話せてしまう時って数少ないけどやっぱりあると思う。
でも、この映画は本質的にはパンクが大事なんだ。ごちゃごちゃしたものをすべてひっくり返したパンクが。こんな映画を見ている人はArtFagって言われる側の音楽を聴いてたと思うが、おれもそうだ。ブラックフラッグも好きだけど、ニューウェーブとか聞いてた側だ。聞いてる音楽一つだけで自分がどういう人間かが表すことができた時代でもあるってことですね。同時代に生きていたらおれもトーキングヘッズを聴いてることは隠すと思う。ドロシーとビリーが二人で聞くシーンもいいっすね。
エンドロールで流れるバズコックスのWhy can't touch itがいいですよね、見ることもできるし、感じることもできるし、味わうことも聞くこともできるけど、なんで触れることができないんだ?って、これ劇場パンフレットではジュリーとセックスできなかったジェイミーの感情みたいに書かれてるところがあったけど、いや、この映画見た後にそう思うかなあ…。