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夏至物語のTKLのレビュー・感想・評価

夏至物語(1992年製作の映画)
3.0
昔、映画学生だった頃、「白夜物語」という題名の短い脚本を書いた。
その題名の着想のきっかけは、ちょうど見聞きしたこのミニドラマのタイトルだったと思う。
岩井俊二がほぼ無名の映像作家だった頃に、深夜のドラマ枠で放送された本作の存在自体は勿論知っていたけれど、観られる機会はなく、最近買った岩井俊二初期作品集のDVDBOXに収録されていたものをようやく観た。

岩井俊二自身がコメンタリーで語っていたように、極めて限られた予算で、撮影当日初面識のキャストで撮影された本作は、想像以上に“いいかげん”で雑多で倒錯的だった。ただ、その結果として特異なインモラルも滲み出ていたように感じた。

主演の女性は、当時芸人をしていた人らしく、演技らしい演技はしていないのだけれど、この人が何か淫靡さを醸し出していて、ちょっと目が離せなかった。
ラスト、“予定の時刻”に合わせて慌ててメイクをして、愛する“彼”と邂逅するシーンは、殆ど意味不明だけれど、不思議な情感を見せる。

その“彼”として1シーンのみ登場し見事な大根演技を披露する男が、当時ほぼ素人同然のくりぃむしちゅーの上田晋也であることも岩井俊二ファンの間では有名な話で、その大根ぶりをようやく観られたことも感慨深かった。

前述の通り、決してクオリティの高い映像作品ではないけれど、もし1992年当時、深夜にテレビ放映されていた本作を、偶然に何気なく観たならば、「あれは何だったのか?」という困惑した思いを強く持ち続けていたことだろう。
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