美しい世界の物語か、愚か者の物語か。
甘い歌声とトランペットの妙技で黄色い声を浴びているジャズの天才「チェット・ベイカー」は、自身の伝記となる映画に本人役として撮影に臨んでいた。その最中のある日、麻薬にまつわる金銭トラブルで、夜道でボコボコにされ、トランペッターの命ともいえる歯や唇に、後遺症を伴う大きなキズを負う。
絶望の縁を歩くチェット。支える彼女。
もう麻薬には手を出さないと約束し、小さいステージから徐々に奏者として、また歌手としてやり直しを図る。
持ち前の才能で復活を果たすべく、最後の大舞台に立つチェット。
しかし、彼女はそのステージを観て別れを告げる事なく去っていった。
先に深淵の方から睨まれるほどの天才ゆえの苦悩、そして薬物の怖さ。
決して抜け出せず、光を見ずに明けない夜の映画。
美しいジャズはどのようにして生まれ、そして死ぬのか。
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実話を元にしているらしい。暗く怖い。
しかし、でも映画ではちょっと美化しすぎているようにも思いました。実際はどうなんだろうと。もっと荒れていて、もっと厳しい状況ではなかったのか。それを慮ると逆に彼の一生の凄まじさを思い知らされます。
売れっ子となってからの不祥事、そして同じジャンル同じ見せ方で復活するのは容易なことではありません。彼は相当な時間と努力をしたのではないか。それでも、それでもその努力を一瞬にして破滅させる「魔法の薬」の威力。依存性。
美しい世界の物語か、愚か者の物語か。
私には到底わからない。
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鑑賞後、チェット・ベイカーの映像をYoutubeで観た。
「上手」とは違うと思う、が、とてつもなく甘い歌声と、悲しい音色のトランペットがなんとも言えず惹きつける。
夜の喫茶店で聴いてみたい。