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ブルーに生まれついてのmasayaのレビュー・感想・評価

ブルーに生まれついて(2015年製作の映画)
4.1
若くして西海岸白人ジャズの寵児として名を馳せたが、薬物中毒で表舞台を追われたチェット・ベイカーの再帰までの日々。富と名声の代わりに手に入れた愛を、復活が叶うその時に彼は手放す。人生の苦さ、人の愚かさ。全て内包して音楽は鳴らされる。

甘い歌声とルックス、高い演奏技術で全米を席巻したものの、黒人音楽の歴史を背負ったマイルス・デイビスらと比べて真っ当な評価を受けることが出来なかった彼が、幾重の挫折を経て不完全な状況で鳴らす音だからこそ生まれた価値で再評価される。芸術の不条理を感じた。

そして社会的な成功は個人的な人生の充実を必ずしも約束しない、この苦みを突きつけて終わり、後には何とも言えない切なさだけが残った。彼に選択肢はあったが、他を選ぶことは無かっただろうことは、このタイトルが雄弁に物語っている。


小倉昭和館二本立て上映復活第1弾のジャズ映画特集。1本目の『BLUE GIANT』は青く燃える熱さ、2本目の『ブルーに生まれついて』は人生を思わせる苦さ、対照的に思えてどちらもジャズの多面性を示す一側面なのだな。良い組み合わせでした
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